川上和人『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』
やっぱりとても語りが面白い。
正直、恐竜はジュラシックパークを見てわくわくするのみレベルで全然知らないし、鳥のこともさほど興味ないけれども、こんなにも楽しく読めるって、よっぽどだと思う。
本書は、恐竜は鳥類の祖先だったのではないかという学説が出てきたことから、鳥類学者である筆者が、鳥類学者の視点で恐竜についてあれこれ考察する、という内容である。
なので恐竜の話のはずなのに、鳥類の知識がいっぱい身に着く、なんとも不思議な本でもある。
とりあえず、本書の目次を抜き出してみる;
はじめに:鳥類学者は羽毛恐竜の夢を見るか
序章●恐竜が世界に産声をあげる
Section 1 恐竜とはどういう生物か
Section 2 恐竜学の夜明け、そして…
第1章●恐竜はやがて鳥になった
Section 1 生物の「種」とはなにかを考える
Section 2 恐竜の種、鳥類の種
Section 3 恐竜が鳥にになった日
Section 4 羽毛恐竜の主張
第2章●鳥は大空の覇者となった
Section 1 鳥たらしめるもの
Section 2 羽毛恐竜は飛べるとは限らない
Section 3 二足歩行が鳥を空に誘った
Section 4 シソチョウ化石のメッセージ
Section 5 鳥は翼竜の空を飛ぶ
Section 6 尻尾はどこから来て、どこに行くのか
Section 7 くちばしの物語は、飛翔からはじまる
第3章●無謀にも鳥から恐竜を考える
Section 1 恐竜生活プロファイリング
Section 2 白色恐竜への道
Section 3 翼竜は茶色でも極彩色でもない
Section 4 カモノハシリュウは管弦楽がお好き
Section 5 強い恐竜にも毒がある
Section 6 恐竜はパンのみに生きるにあらず
Section 7 獣脚竜は渡り鳥の夢を見るか
Section 8 古地球の歩き方
Section 9 恐竜はいかにして木の上に巣を作るのか
Section 10 家族の肖像
Section 11 肉食恐竜は夜に恋をする
第4章●恐竜は無邪気に生態系を構築する
Section 1 世界は恐竜で回っている
Section 2 恐竜の前に道はなく、恐竜の後ろに道はできる
Section 3 そして誰もいなくなった
あとがき:鳥類学者は羽毛恐竜の夢を見たか?
文庫版あとがき、あるいは鳥がもたらす予期せぬ奇跡
正直なところ、私にとっての本書は、恐竜について知識を得るためのものでも、鳥類について知識を得るためのものでもなく、単純に筆者の文章を楽しむためのものなので、内容をまとめるというより、面白かった文章をただただ羅列していきたい。
次に、恐竜を取り巻く動物との関係を見ていこう。恐竜が爬虫類であることは、発見当初から異論なく認められてきたことだ。クラゲの仲間だと思っていたという人には、この本の内容は衝撃的すぎるので、ここで本を閉じてもらいたい。(p24)
(古代の大型爬虫類としては、魚竜や首長竜、翼竜などもいて、しばしば図鑑などでは恐竜と一緒に語られるけれども、実は恐竜とは違う種類)
身近な爬虫類であるトカゲやヘビは、鱗竜形類というグループに含まれる。このグループには、モササウルス類や魚竜、首長竜も含まれる。…(中略)…首長竜は、日本で見つかったフタバスズキリュウを含む水棲爬虫類。ドラえもんの映画『のび太の恐竜』で主役を演じ切ったピー助は、フタバスズキリュウだ。つまり、残念ながらピー助は恐竜ではない。さらに、のび太はタイムふろしきで化石の卵を孵化させるが、最近の研究では首長竜は卵生ではなく胎生の可能性が指摘されている。科学は、ときに子供の夢を壊す悪魔になる。(p24-25)
(補足すると、恐竜は主竜類というグループで、ワニと同じグループに属する)
(シソチョウについて)
(略)あれだけ立派な翼をもっているのである。しかも飛ぶための羽毛である風切羽は、飛行に適した左右対称の形をしている。また、脳の形態を現生鳥類と比較した結果からも、飛翔を充分に制御する能力があったと考えられている。このような翼や骨格の形態を背景として、シソチョウは羽ばたきは無理でも滑空はしていたであろうと考えられることが多い。現代の鳥類を観察している立場から見ても、あの格好で飛べなかったら詐欺だ。科学的論証はさておき、私はシソチョウは飛べたと直感的に信じている。うん、我ながらじつに科学的ではないが、ときには直感も大切な判断材料であることを御理解いただきたい。(p140)
現生鳥類はみな、くちばしをもっている。100%、全種がもっている。そして、その代わりといってはなんだが、歯が存在しない。就寝前に歯磨きしなさいと母鳥に怒られる鳥の姿を見たことがない理由は、この点にある。(p184)
(上の続きで、歯があった恐竜からくちばしになった理由)
指がなくなったときに、ペンチとピンセットのどちらかを選ばせてもらえるなら、やはりピンセットだろう。鳥のくちばしは、歯のある口の代わりに生まれたのではない。むしろ、手の代用品として生まれたというべきだ。オウムの仲間では、木を登るときに、足だけではなくくちばしでも枝をつかんで、まさに手のように使用する。「くちばし=手+口」という公式を作り、理科の教科書に載せ、試験前の高校生に暗記させたいくらいだ。(p193)
足跡化石は、本人の化石が残っていないゆえになおさら想像力を刺激する。なにしろ、織田信長の足跡すらみたことのない現代人が、1億年も2億年も前に恐竜が歩いた痕を、目の当たりにできるのだ。このことにロマンを感じる人は、ぜひ未来の古生物学者にも同じ感動を味わわせるため、今すぐにでも近所の沼地の泥の上にて裸足でスキップするとよいと思う。(p211)
さて、図鑑を見ると、こちらは植食、こちらは肉食、こちらはアリ食、とさまざまな恐竜の食性に言及している。…(中略)…しかし、その根拠は間接的、断片的な場合が多く、真実の食性が明らかな場合はほとんどない。胃内容物の発見も、死亡直前にそれを食べていたことを示すだけで、種の代表としての食性を反映しているかどうかは別だ。今私が死ねば、100万年後にチロルチョコの化石とともに見つかる。だからといって筆者はチロルチョコばかり食べていた甘えた男だったと図鑑に書かれるのは、真っ平御免だ。(p269)
私もこういう風にユーモアにあふれつつ分かりやすい文章を書いてみたいもんだと思った。その前に何について書くんだ?という話だが…
川上和人『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』2018年、新潮社
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