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がらくたにっき |

登場人物の名前がユニーク

西崎憲 「蕃東国年代記」 2010年 新潮社




本書が店頭に並びだしてから、ずっと気になっていたのが、例によってなかなか行動に結びつかず今になった。
表紙からして和風ファンタジーのようだし、「蕃東国年代記」というタイトルもなにやら十二国記に似てるものを感じて(実際は『記』しかかぶらないけどね)、わくわくしたのだ。

ところが、なにやらかわいらしい表紙絵とは裏腹に、割とブラック、というよりシビアな物語だった。
連作となっているのだが、本自体が薄いのにも関わらず長く感じる作品だった(つまらなくて長く感じるというわけではなくて)。

タイトルの通り“蕃東”という国が舞台になっており、ユニークなのが蕃東が別世界に位置しているのではなく、日本と中国の間の島国という設定なのが面白い。
なので歴史的にも日本と中国から影響を受けており(でも日本のほうが近いらしく影響度も大きいらしい)、章の合間合間にまことしやかな蕃東に関する資料が挟まれているのが面白い。

私の乏しい読書遍歴からするに、このように架空の国が現実の世界に存在しているファンタジーってあまりない気がする。
それとも、蕃東国の歴史のなかで日本の平安時代のような時代をかき集めている、という態だから、架空の動物や魔物が出てきても純粋なファンタジーというよりも、夢枕獏の「陰陽師」っぽい感じなのかもしれないが。

収録されている作品は;

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『グロテスク』のキャラがはまった新興宗教は、やはりオウム真理教がモデルとしか思えなくなった

早川紀代秀 川村邦光 「私にとってオウムとは何だったのか」 2005年 ポプラ社




またもや「読む本リスト」を潰そう企画。
今回も三浦しをん女史が薦めていたのであろう「私にとってオウムとは何だったのか」。

実は、私にとって地下鉄サリン事件は幼少期の印象的な事件として挙げられる。
というのはサリン事件の数ヶ月前、阪神淡路大震災で被災し、人の命の重さというものを実感させられた。それなのに、天災という人間の力ではどうしようもないところで沢山の命が奪われたその数ヵ月後に、人間の手で無差別に人の命が奪われたということに、子供ながらにショックというよりも怒りを感じていた。
それに伴い、今までは地震一色だったメディアは、これ以降地震の話を忘れたかのようにオウムについて騒ぎ、まだ被災生活が続いている身としては、メディアの変わり身の激しさを初めて認識したものだった。


何はともあれ、「私にとってオウムとは何だったのか」は、元・オウム真理教の幹部である早川紀代秀氏の記述が前半、後半に宗教学者の川村邦光氏の考察、という構成で成されており、非常に興味深かった。
とにかく疑問はひとつ;なんであんなひげもじゃで、いかにも胡散臭げな麻原彰光を崇めたてるにいたったのか?

ちなみに川村邦光氏の考察は、宗教による洗脳・大量殺人は珍しいものではない、という趣旨の論評で、やはり当人の記述の方が興味深かったので、さらりと流すのでとまった。

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主人公にああいう幸せを掴んで欲しくないというのは、読者の傲慢さか

野沢尚 「殺し屋シュウ」 平成18年 幻冬舎




今度の本の交換会で、持って行こうと思って再読した「殺し屋シュウ」。
面白かったという印象だったのに、以前の自分のレビューを見てびっくり。大分辛口じゃあないの。

確かに二ール・ケアリーの面白さには劣るよ。でも全然違う話じゃないか!昔の私よ!
境遇が似てるっちゃあ似てる(両親に恵まれず、他人に拾われて暗殺者/探偵に教育されるってところや、文学部に籍をおくところなど)。でも主人公の毛色があまりに違うじゃないか…

ということで前回はニール・ケアリーにだぶらせて(しかもただ表紙が同じってだけで)読んでたから“いまいち”的な感想だったけど、単独で読んだら普通に面白かったので、ぜひとも交換会に持っていこうと思った。

ちなみに私のお気に入りの作品は「シュート・ミー」と「スーサイド・ヒル」で、暗殺者を“人を殺す者”というよりは“死を与える者”という形で描かれているのがユニークだと思った。
自分で死を選ぶけれども“自殺”ではない… あまりにそのエピソードを上手く書いているように感じるのは、野沢尚氏が自殺したということを知っているからか。

Category : 再読
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1ページまるまる著者近影って珍しくないか?

玄月 「蔭の棲みか」 平成12年 文芸春秋




大阪にある文学バーなるものに行ってみよう!という企画が本仲間で立ち上がり、その文学バー“リズール”のオーナーこそが芥川賞作家の玄月氏ということで、読んでみた。
実際は行った日には間に合わなかったのだが…

同じことを思う人は他にもいて、他に2人ほど読んできていたのだが(こちらは読み終わってた)、その2人が「けつペンチ」「けつペンチ」というから何かと思ったら、本当にけつペンチだったよ…というのは後日談。

読了後の感想といえば、“やっぱり芥川賞作品って読みにくいな”というもの。
私の場合、読書には“娯楽性”を大変求める傾向にあるのだが、その大事な“娯楽性”を削ぎ落としたような作品だった。というわけで、他の作品を読むことはないだろうな… 悪いけど…

ちなみに“リズール”にいらした玄月氏は、こんな(失礼!)作品を書いているとは思えないような、ダンディな感じの方でした。

芥川賞受賞作品でもある表題作「蔭の棲みか」を含めた収録作品は;

Category : 小説:短編集
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ジャッカルがのんびりしていたことしか覚えていなかった…

フレデリック・フォーサイス 「ジャッカルの日」 篠原慎・訳 昭和54年 角川書店




割とフレデリック・フォーサイスが好きなのだが、一番最初に読んだ作品が「ジャッカルの日」だった。
それで今度本の交換会なるものがあるので、それに「ジャッカルの日」を持っていこうと思ってはたと思ったのが、話をあんまり覚えていないこと。ということで再読しました。

実は一回目に読んだ時は原作で読んでいた(かなり四苦八苦した)のだが、本当に私は理解していたのか?というくらい、政治に部分が難しかった……
それでもジャッカルがかっこいいと思うのは変わらなかったけどね。

政治の部分が難しかったとは言えども、ストーリーラインはいたって簡単。
つまり、ジャッカルと呼ばれる殺し屋が、フランスの大統領シャルル・ドゴールを殺すよう雇われる。
それを知ったフランスの警察が、名前も分からない外国人による暗殺計画を阻止しようと東奔西走する話。

この話の魅力的な部分は、現実とフィクションが入り混じっていること。
まずジャッカルを雇ったOASという組織は実在していたし、もちろん標的シャルル・ドゴールも実在人物。しかもシャルル・ドゴールは何度も暗殺されそうになったという事実がある。

そしてジャッカルの暗殺への準備の過程のリアルさといったら半端ない。パスポートの偽造方法まで事細かに描かれている。

すべては著者フレデリック・フォーサイスが元ロイター通信の海外特派員だったから為せた技だとも言えるだろうが、素状の知れない(読者にも)ジャッカルという人物をあれほど生き生きと描けるのは大したもんだと思う。
ただ一つのリアルさに欠けるところは、イギリス警察官が割と素晴らしく書かれていること。ま これはイギリス人が書いたんだからしょうがない、とするか。


てなことを、紹介すればいっかな。

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表紙の絵、クドカンというより芥川龍之介っぽい

宮藤官九郎 「おぬしの体からワインが出て来るが良かろう」 2004年 学習研究社




桐野夏生の「グロテスク」に続き、読む本リストに載っていた本。
これも多分三浦しをんさんのエッセイに載ってたんだと思う。
前に「妄想中学ただいま放課後」を読んで、クドカンの人となりに軽くむかついたので読みたくなかったのだが、リストからなくしたいばかりに読んだ。

本当はこれの前に一冊あるみたいだが、読む気がしないのでパス。

「木更津キャッツアイ」とか「タイガーアンドドラゴン」は好きだったけど、どうも人が嫌だわ…
まず自分のことを“くんく”とか言ってる時点で、もう私は無理だ~なんだよな。
しかも業界にまったく興味がないから、もう読む気がしないよね。

だったら読むなって感じだけど、まぁリストから削除したいがために頑張って読んだのだ。
リストにももうクドカンの本がないから正直ほっ。もう二度と同じ轍を踏まないぞ。

Category : 随筆
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女性作家ほど、女性を容赦なく書くよな(当たり前か)

桐野夏生 「グロテスク」 平成15年 文芸春秋




先日、読みたい本リストをひょっこり見つけたら、その中で未読分を片っぱしから潰していきたい衝動にかられて、まず一番上に書かれていた「グロテスク」を借りて来た。
確か、三浦しをんさんのエッセイに載っていたのだと思う。

感想はというと…
こんな太い本で、こんな読み応えのある題材で、こんな失望するエンドの本はかつて読んだことないわ、というものだった。
短く言うと“なんなん!?この結末!?”である。


内容はというと、ほぼ一人の語り口調で為される。
主人公はスイス人と日本人とのハーフで、妹が一人いる。その妹というのが、大変美人でそれはこの世のものとは思えないくらいだったらしい。

主人公が語り始めた発端というのが、娼婦となったその妹が殺されたという事件である。
そして主人公と同学年だった和恵も殺されているのだが、その和恵は昼間は誰もが知っているような大企業のOLであったので、夜には娼婦となっていたということで世間から注目を浴びている事件となっている。

基本的に、主人公と妹の確執、家族と離れてQ学園に入ってそこでの生活が主人公の口から語られており、合間に二人を殺した犯人の公判での証言、妹・ユリコの手記と和恵の手記が入っている。

主人公の妹へのコンプレックスや、和恵のコンプレックスなどが緻密に描かれており、まさに“グロテスク”。
特にQ学園での生活はリアルだった。女子高なのだが、小学校からある学校で、小学校からいる生徒、中学校からいる生徒といった順で順位がある。そんなわけで高校から入った主人公や和恵にはおよそ勝ち目のない世界なのだ。
その壮絶さもさることながら、和恵が鈍感に奮闘する格好は本当に滑稽に思えてしまう。そして和恵自身の手記によって明かされる和恵のその後の姿は、どの鈍感ぶりに拍車がかかっていて驚くばかりだ。

私自身が女子高出身なので、和恵のような人が容易に想像できるせいか(そしてこういう愚鈍さを嫌っているのも事実)、和恵に非常に興味があった。

確かに主人公の妹へのコンプレックスも印象的だし、美人=怪物という図式も、“美少女には必ず毒がある”という恩田陸的な図式とは違って、“美人”という容姿自体が怪物、というのが斬新な気がしたが、和恵のグロテスクっぷりには負ける。

そんな調子でグロテスクぶりを楽しんでいたのだが、この物語はどう決着をつけるのだろうか…と思っていた矢先にこのエンディングですよ!!!
エンディングにまつわるので、必然的にネタばれになるのでご注意を↓

Category : 小説:現代
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義太夫と相三味線の仲は、三浦しをんさん的に萌えなんだろうな

三浦しをん 「仏果を得ず」 2007年 双葉社




実はエッセイばかりであまり小説を読まない三浦しをん作品。
あんまり小説は読む気がしないのだが、その中でずっと読んでみたいと思っていたのが「仏果を得ず」。
私自信、文楽が好きだし、しかも三浦しをん女史も文楽が好きと知っていたので、ちょっと興味があったのだ。

結果としては割と面白かったと思う。
ただ残念なのが恋愛要素は入れなくてもよかったんじゃないかと思うのだ。
なんか相手の女性も魅力的でなかったうえに、小学生の自分の娘と主人公を取り合う、という図がなんとなく成り立つ部分も、なんだかなぁ~という感じだった。

と文句はこの辺までで、その他は本当に面白かった。
私は割と人形遣いの方を見てしまう方なので、義太夫がスポットを浴びている話は“へぇ~”というのも相成って面白かった。


主人公は人間国宝の義太夫・銀大夫の弟子・健大夫。
ある時、銀大夫の相方の三味線・亀治の弟分になる兎一郎と組むように、銀大夫に命じられるところから話が始まる。
この兎一郎というのが曲者で、腕はとてもいいのだが一定の人と組むことを拒む。しかも無口。

この二人がなんとか信頼を得ていって、正式にペアになって最後は仮名手本忠臣蔵の勘平腹切りの段を演じるところまでが描かれている。

ベースとなるのは健大夫の悩みつつも、兎一郎と組んで芸を研鑽していく、というありふれた話なのだが、キャラクターが愛すべき人たちなのと(銀大夫なんて最高)、古典芸能を現代で“語る”ということを悩むというくだりがとても面白かった。
確かに歌舞伎や、人形遣い、はては能などのように“演じる”のではなく、素の姿で“語る”というのは、当たり前のことながら演じるのとは趣が違って、“現代の人に古典を披露する”難しさが出てくるのだなと思った。

というわけで、題材としては私のツボだったのだが、どうしても恋愛要素がな~
それだからこそ恋愛要素が必要なかった気がしてならないのだ。
確かに、兎一郎との話とか、銀大夫と奥さんのごたごた話とか、兄弟子さんの盲腸の話とか、そういったのだけではエピソードとしてもう一つ欲しいな状態になりそうだけど、文楽に関するエピソードが良かった気がしてならない。
本当に惜しい……

Category : 小説:現代
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ペンネームの由来が知りたい

汀こるもの 「パラダイス・クローズド THANATOS」 2008年 講談社




久しぶりに読んだメフィスト系列の本「パラダイス・クローズド」。
書店で“死を招く者と探偵の双子”というようなあおりを見つけて、面白そうだなと思い図書館で借りて来た。

読後の印象はというと、まぁ作者の『汀こるもの』という奇怪な名前に表されているような内容だった。
“死を招く者と探偵の『双子』”というところで想像できるであろう、割と漫画的な内容でもあった。

そもそも、この双子とその付き添いの刑事(一応主人公)しか目立たないこと極まりない。
何せ双子は、そんな特殊な性質を持つ上に美青年っていうんだから(そして性格も個性的)、双子ばっかり焦点が当たる。だから推理小説ではあるまじきことに、殺された人も“この人ってなんだったっけ?”という状態。犯人にだって“だからこの人って誰?”という状態だもんだから、誰が犯人でもさして問題がない有様。

そんな状態だからあらすじを書くと、至ってシンプルになる;

双子の兄・美樹には死を招くという特殊体質を持っている。行く先々で(身内も含め)人が死んでいく。
その影響ですっかり立派な高校生探偵になってしまった弟・真樹。
美樹の存在はネットでも暴かれてしまい、それも理由となって警察が御目付役をすることになっている。その白羽の矢が当たったのが高槻。

美樹はひきこもりなのだが、大変なアクエリスト。
同じくアクエリストの推理小説家に招かれて、小説家が所有する無人島に建つ屋敷にやってくる。というのはその屋敷には“モナコ水槽”があるからだった。
モナコ水槽のなんたるかはメンドイので端折るが、要するに人間が餌をやったりと世話することなく、海と同じような生態系で循環していく水槽のことらしい(多分)。

そうやって“モナコ水槽”につられてやって来てしまったのだが、もちろん殺人事件が起きる。
そこには他の推理小説家が招かれていて、屋敷の主を筆頭に次々と殺されていく。

孤島、電気も消されて離島状態、しかも嵐、というお約束なシチュエーションなのだ。

でも他の推理小説と違うところは、探偵役のはずの真樹が謎ときのシーンで、密室のトリックを暴くのを“拒否”するのだ。
「何にせよ、今ここにいる皆さんは生きてるわけなんだから。謎なんて解けなくてもどーでもいいじゃん。トリックなんてどーでもいいじゃん。命あっての物種。とりあえず生きてりゃ密室なんてどーでもいいじゃん。」(p201)なんて言う始末。
そもそも主人公の高槻もまったく推理小説を読まない人で

金田一のじっちゃんの方が落ち武者伝説を聞いて鍾乳洞ダンジョンを右往左往したり、男前だが頭のネジが二、三本外れた変人探偵が金持ちのお屋敷だの洋館だので今どき誰も知らないような宗教や土着の風俗習慣や脳生理学に関する蘊蓄を垂れながら、死んだコマドリのためにカラスがお経を読むとかいう見るからに聞くからにシュールな内容の海外の子守歌になぞらえた密室殺人の謎を解いたりするのが本格ミステリというものらしい。
 この館というのが曲者で、忍者屋敷のごとき隠し通路や隠し扉、地下の拷問室、座敷牢は標準装備。土壁に人間の死体が塗り込められていたり、部屋や館自体に人間を殺せるようなギミックが仕込まれていることもある。大体が正気を失い、非業の最期を遂げた建築家だの悪趣味な大富豪が金に飽かせて造ったもので、消去法など気にしていては始まらないそうだ。(p43-44)

といった態。
推理小説でいながら、推理小説に罵詈雑言(は言い過ぎか?)を述べるのは、それはそれで面白かった。

ただ前述したとおり、問題点の方が目に着くのも確か。
でもミーハーな私としては、その双子のキャラ設定は割と気に行ったので、その双子を読む為にも何冊かシリーズを読んでみようと思う。

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