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がらくたにっき |

実は劉備が一番好きじゃないかも

吉川英治 「三国志(三)」 1989年 講談社




やっぱり面白い「三国志」。読み始めるとすぐ読み終わってしまう。
内容といえばただただ戦っているだけ(失礼!)なんだけど、人間のスケールが違うし、また吉川英治の筆致も鮮やかですいすい読めてしまう。人間のスケールが違うのは、やっぱり大きな大陸だからかしら…(まぁ誇張も多いにあるだろうけど)

さて本書の最大なる事件はというと、呂布がついにやられてしまうところ。
呂布といえば、自分を育ててくれた主人を裏切って寝返った先の主人は、朝廷を乗っ取るような暴挙に出る。周りのけしかけもあってまたもや主人を殺して、今や強豪将軍となったといったところだろうか(私の記憶が正しければ)。

吉川英治作品の特徴だと思われるが、この呂布も決して悪人に書かれていない。
むしろ子供のような人に描かれている。なのでどんどん追いつめられていくところは、追いつめる側に「もっとやれー!」と声援をかけるというよりも、呂布に対して「あらあらあら…」という感情を抱いてしまった。


呂布が倒されると必然的に曹操が絶大な力を持ち始める。
そして例によって、朝廷内では曹操をなんとかしなくては…という想いを持つ者が現れる。

劉備と曹操の関係はというと、当初はそこそこいい。
ところが、朝廷内の曹操反対派の仲間に加わったのがばれたことで、一気に敵対することになる。
もちろんのことながら劉備の方は大敗し、しかも劉備・関羽・張飛は別れ別れになってしまう。

まず劉備が身を寄せたのは、曹操と敵対している袁紹の元。
一方関羽の方はというと、かねてから関羽のことを好ましく思っていた曹操へ迎えられる。この曹操、大変関羽のことを気に入ってなんとか自分の部下にしたいと思うが、関羽は頑として断り、ひたすら劉備のことを慕う。それがまた曹操が関羽を気に入る元となって…というところで三巻は終わる。

以下は好きなシーンの抜粋

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Category : 小説:歴史
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「まぁ」というのが口癖なのかな

三津田信三 「ホラー作家の棲む家」 2001年 講談社




「厭魅の如き憑くもの」を本屋で見かけてから大変気になっていた作家さんだった上、よく参加する本の交換会によくこの人の本を持ってくる人がいたので、是非とも読みたいと思いつつ、やっと借りたデビュー作「ホラー作家の棲む家」。

全体的な感想としては、期待しすぎたせいもあるかもしれないけれども、不完全燃焼な終わり方だった。
確かにホラーテイストの部分は本当に怖かったし、面白い構成になっていたし、そこらへんは良かったけどオチがどうも頂けなかった。

ネタばれを含みそうなので、以下追記。

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アビシニアンって可愛いなぁ

柴田よしき 「消える密室の殺人―猫探偵正太郎上京―」 平成13年 角川書店




あまり途切れずに読んだ、正太郎シリーズ2作目「消える密室の殺人」。
やっぱり柴田よしき面白いな~
超くだらないところかもしれないけど、こんな感じなところとか妙にツボ↓

(デビッドとボウイという双子猫のどっちか分からない猫について話しているシーン)
だがこのデビッドじゃなければボウイのことは、好きそうにもなれそうもないな、と思った。確かに、勝負は最初からついていた。どう見てもタクローよりもデビッドあるいはボウイの方が敏捷で強靭、顎の力も脚力も強いだろう。…(中略)…だが、だからこそデビッドかもしれないしボウイなのかも、は、タクロ―を挑発するべきではないのか。…(中略)…まあしかしこの場合、先に余計なことを言ったのはタクローの方だったので、あながちデビッドええいめんどくさいどっちなんだいったいボウイばかりを責めることは出来ないのだが、それにしても、このデビッドもうどっちでもいいやボウイは底意地が悪いじゃないか。(p54)


さて今回の正太郎は、タイトルにある通り東京へ行く。
もちろん正太郎に意志ではなく、飼い主の桜川ひとみの突発的な行動により。

そしてその突発的に自分が世話になっている出版社に乗り込んだものだから、猫が泊まれる場所を見つけられず、その出版社がたまたま猫カレンダーを作っているとのことだったので、そこに正太郎を預けることになった。
ところがその夜、カメラマンと猫がトイレで死体となって見つかる。しかも、そのトイレはプレハブ小屋についているトイレだったのだが、そのプレハブ小屋には人がずっといたし、その人たちは犯人はおろか、被害者も見ていなかったという密室状態だった。

例によって人間の殺しには興味ない正太郎だが、猫を誰が殺したのか?という謎に挑む。

猫のくせにやたらと見事に解決する正太郎。
殺された猫の謎のついでに、殺人の方も片づける。

ここからネタばれ!

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ベルゴットが期待外れというところが共感を持った

マルセル・プルースト 「失われた時を求めて3 第二篇 花咲く乙女たちのかげに I」 鈴木道彦・訳 2006年 集英社




あまりに長いスパンをかけて読んだせいで、最初の方を忘れてしまった「失われた時を求めて」の3巻。

本書になると語り手のお話になる。
スワンとオデットは結婚しており、その娘・ジルベルトと語り手の交際がメインの話となる。

ジルベルトの友達、ということでオデットのサロンに招かれるようになった語り手は、大好きな作家のベルゴットに出会ったりする。

本書には二部入っており、第一部は「スワン夫人をめぐって」、第二部は「土地の名・土地」となる。
「スワン夫人をめぐって」がメインとなっており、ジルベルトと仲良くなって好きになるところから仲違いするところまでが描かれている。
「土地の名・土地」では、ジルベルトと仲違い後に、ずっと夢見ていたバルベックへ行く。

一応ジルベルトへの想いを綿々と書いているが、実はジルベルトに関する記述が少ない(ような気がする)。それよりもオデット(今はスワン夫人だけど)のサロンの様子、それもオデットについての描写がよく書かれている。
「土地の名・土地」では、またもや実際に見たら、自分が想像していたものより格別に劣る、といった趣旨のことが書かれている。

ところで、本当に不思議で戸惑わせられるのが、いったいこの語り手はいくつくらいなのか、ということだ。
ジルベルトとの話の中では商売女の所へ行くシーンがあるし、バルベックへ行く前にアルコールを飲む場所を探すシーンがある。
まぁフランスだから早い時期からお酒を飲むとしても、ビールはそんな若い時期に飲むとは思えない。

そうかと思うと驚くほどメソメソする。
いくら繊細だからってそれはないんじゃないか!?というくらい。光源氏も真っ青なくらい。
バルベックへは祖母と一緒に行くのだが、すぐ不安がって夜中に祖母を起こして、キスをしまくったり…。
もう一体いくつなんだろう…

あまりに歳に関するヒントがなさすぎて、いちいち振り回されてしまう。
これが例えば17歳、と分かって読んでいれば、泣いたりしても、まぁ繊細なのね、で終わるのだが、歳が分からずに語り手の言動から歳を判定するしかないとすると、17歳が10歳に急になったり、でも時系列的にはこの時とこの時は同時期なのだが…と混乱させられる。

なにはともあれ、今回気にいった個所をつらつらと書きとめておこう

Category : 小説:古典
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どうしても“カドタ”と読んでしまう…

角田光代 「幸福な遊戯」 1991年 福武書店




“疑似家族モノ”というテーマで読書会をやった時に紹介された「幸福な遊戯」。何気に初めての角田光代作品である。
本書には3作入っていて、どの作品も奇妙な女性が主人公となっている。
本当にざっくりとしたあらすじを書いてみると;

『幸福な遊戯』
男2人に女1人で同居することになった。恋愛関係は無し、というルールで。主人公の女性はその“家族”的なものを楽しむのだが、一人が出ることになる。それを必死に阻止しようとするがその甲斐も空しく出ていってしまう。二人で“家族”感を出そうとするのだが、相手の男性もその異常さに(多分)出ていってしまう。

『無愁天使』
母親が長期入院に入り、金銭的に抑制された家族(父・娘二人)。その母親が亡くなってから保険も入り、その抑制から解放された途端、お金を湯水のように使う家族。父親は旅に出てしまい、妹はその異常さに気付き家を出る。姉だけは物にあふれかえる家に住みつつ買い物をし続ける。

『銭湯』
銭湯に通う主人公の八重子は、都内の会社に勤めるOL。しかし学生時代には演劇にはまり、演劇で食べていこうと一瞬夢を見たが結局勤める。しかし郷里に住む母親には『演劇で食べていく』と言いきってしまう。自分の妄想の中に住むかっこいいヤエコと現実の自分の話。
この“銭湯”でちょっといいなと思った描写;

 自分の天分に見合った幸せという言葉が八重子の頭の中を旋回する。八重子の視線は音を立てずに実家の廊下をつたう。西日の差し込む和室は黄金色に光り、その黄金色に晒されながら隅でひとり背を丸め、幸福という文字を綴る母の姿が見える。(p169)



でも全体的に、短編のせいもあるのかもしれないけれど、奇妙でつるんとした話のような気がしてならなかった。
独特な女性、というのは嫌いではないのだが、その奇妙さが彼女たちの過去に直結しすぎて感慨があまり湧かなかった。なんというか、奇妙なのが簡単すぎるというのか。

Category : 小説:現代
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続編を早く読みたい!

高殿円 「トッカン―特別国税徴収官」 2010年 早川書房




去年、本屋で山積みになっている本を読んだら割と面白くて、図書館で借りようと思いつつ、タイトルを書きとめるものがなくて、まぁでも黄色い表紙だし、また今度本屋で見つけて書きとめよう、と思っている内にいつの間にか目にとまらなくなり…
慌てて探しまくった黄色い表紙の本、それが「トッカン」だった。
私の直感が正しかったのか分からないけれども、続編が出るほどの人気のようだ。

読んでみたら、さらっと読めて“ザ・エンターテイメント本”だった。
ちょっとしんみりな部分も笑えるくらいお約束で、ある意味安心して読める本だった。
題材が“トッカン”と呼ばれる特別国税徴収官、という他にはお目に書かれない題材で、ここだけが新鮮と言えるだろうか。

公務員+税金を徴収する、ということで、世間様の嫌われ者の役なのだが、その苦悩やドラマが軽いタッチで描かれている。
お約束にも主人公は下っ端の女の子:鈴宮深樹(あだ名はぐー子)、突出しているわけでもないのに、国税局からお越しの特別国税徴収官(トッカン)の補佐に選ばれる。
そんでもってお約束なことに、このトッカン・鏡雅愛は冷血無比で、口がとんでもなく悪ければ謎も多い。でも実は…という設定が、またもや笑ってしまうくらいお約束。
まあしかし、こんなお約束でも、こういうキャラには弱いんだなぁ~。しかも過去に何かある、と匂わせられているキャラとなると…。

キャラだけでなく、内容として面白かったのは、ちょっとしたミステリ仕立てになっているところ。
税の徴収とミステリの融合となるとなかなか斬新かもしれない。つまり謎とは、「なぜ税を払わないのか?」というところになる。
もちろん貧乏なところは何の疑問にもならないのだが、外車などがごろごろしているのに…となると、明らかに脱税の疑惑がある。でも申告書を見ると、申告されている税額が正しい。ではどこでちょろまかしているのか?というところが謎となるのだ。

本書ではコーヒー店と、銀座のクラブが舞台となっていた。
コーヒー店はサワリのようなもので、銀座のグラブがメインとなっている。その1件で、ぐー子ははめられたりなどの紆余曲折を経て自己嫌悪に落ちまくって、最後には謎を解明し救われる、という流れになっている。

何度も言うが、それが非常に軽いので読みやすい。
文章もなかなか今風というか;

(な―!)
 なななななな。とわたしの脳がバグり始めた。あれだ、キーボードを押しっぱなしにしたワープロ文章のように、画面いっぱいに“な”の字が増殖していく。な、なんだ、このシチュエーションは。(p165)

なんて、私的になかなか新しい。

というわけで、内容が濃いわけではないけれど、エンターテイメントとして楽しめたの満足である。

Category : 小説:現代
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暑い日に極寒の本を読むと、ちょっとは涼しくなる…?

ミシェル・ペイヴァ― 「クロニクル千古の闇3 魂食らい」 さくまゆみこ・訳 2007年 評論社




さくさく読み進めている“千古の闇”シリーズ。何せ3時間くらいで読める。その割にディーテールが濃い気がする。
本作の「魂食らい」では、残りの4人の魂食らいが出てきた。

ウルフが罠にかかって魂食らいに捕まってしまうところから話が始まる。
レンがワタリガラス族に助けを求めよう、というのを聞かずにトラクが助けに行こうとするので、レンと二人だけの旅が始まる。
しかも今回は北へ北へと向かい、氷河の方へと行くことになる。

ところがトラクもレンも、森の知識があっても氷河地帯の知識はない。
シロギツネ族に見つかり保護され南に帰されそうになるところを、事情を知ったシロギツネ族の人がそっと逃がしてくれる。しかもしっかりとした用意を持たせてくれて。

ということで、人間関係のはらはらはなく話は進む。
ただ北の厳しい自然がトラク達の前に立ちはだかる。

やっとのことで魂食らいに辿り着くのだが、彼らがやろうとしていことは、狩る動物を殺して悪霊を呼び出す、ということだった。
なんとかそれを阻止し、ワタリガラス族に帰ってこれたのだが、トラクは魂食らいに彼らの印を刺青を入れられていた…というところで終わる。


あとがきを読むと、作者はグリーンランドなどに行って実際にイヌイットに取材を行ったようなのだが、確かに非常にリアルだった。
アザラシを狩るシーンなんてこんな感じだった;

 イヌクティルクはそりからトナカイの皮を一枚おろし、穴の風下に、毛の生えている側を下にしておいた。
「おれの靴音を消すためさ。シロクマの足裏には、毛が生えているものな」それからイヌクティルクは、ハクチョウの羽を穴の上にのせた。「アザラシは顔を出す前に、息を吐く、そうすると羽が動くんだよ。その一瞬がチャンスだ。アザラシは、ちょっとの間息を吸うだけで、また潜ってしまうからな」(p121)

とりあえずこのシリーズの魅力は、色んな氏族の営みのディーテール(これが非常にバラエティに富んでいる)に、ウルフのかわいい+かっこよさだと思う。

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今回は美女によって倒されるバージョンがよく出てきた

吉川英治 「三国志(二)」 1989年 講談社




一巻を読んでから暫く経ってからの二巻。
その割にすんなり入れた。

もう人が沢山出過ぎるし、名字にバラエティがない中国のせいか似たような名前ばかりで、人物を覚えるのが困難。
でも圧政を強いるのは悪者ですぐやっつけられるだろうと、あんまり記憶にとどめる努力もせずに読んでいたら、そんな負担にならず読めた。
劉備・張飛・関羽はもとより、曹操とか呂布とか周瑜とか子衡とか、なんとなく聞いたことがある人は、まぁ重要かなと思っている読んでいる状態…。

とりあえず次から次へと権力欲におぼれた人が出てきて、それに対して倒す人やら何やら、とにかく戦戦戦…
ということであらすじを書くことは大変難しい…

本書では孫策が父亡き後、21歳で兵を挙げ、次々と倒していって善政を行う、というところまでいった。
劉備はその性質より、一旦は徐州の太守となったが、またその性質により追われてしまう。
そして曹操はまたもや力を蓄え勢力を持つが、ある女性に傾倒したが為に敗走することになる。
呂布は朝廷を握っていた悪玉を倒すが、その後追われに追われ、劉備に助けられるが、すったもんだあって徐州の太守になってしあむ。

てな感じだろうか。
忘れない内に三巻を読まなくては!

Category : 小説:歴史
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やっぱり表紙絵がいい!

ミシェル・ペイヴァ― 「クロニクル千古の闇2 生霊わたり」 さくまゆみこ・訳 2006年 評論社




“クロニクル千古の闇”シリーズ2巻目。
1巻を読み終わった時は、なんとなく“続きが気になる!すぐさま2巻読みたい!”という気にならなかったのだが、読み始めるとぐいぐい引き込まれて一気に読み終わった。

正直先が読める部分があることはあるのだが、やはり狩猟民族の生活は非常に興味深く、特に氏族によって習わしや考え方が違うという描写が面白かった。

1巻では熊を倒したトラクだがその時にウルフとは別れ、トラク自信はワタリガラス族に身を寄せていた。
悪霊に取りつかれた熊は、“魂食らい”という魔術師一団の内の誰かに創られ、しかもトラクの父親を狙って創られた、というところまでは1巻で分かっている。
その“魂食らい”というのは7人いて、元々は人々を救う為にいたのだが、権力欲に溺れてしまった。その後大きな火事に見舞われてちりぢりになってしまった、というところまでも分かっているのだが、では一体誰なのか?という肝心なところは分かっていなかった。

2巻ではワタリガラス族に病が発生するところから始まる。
どうやら他の氏族でも似たような病が発生しているらしい。
氏族に縛られていない自分にしか病を治す薬を探しに行ける人はいない、というトラクに、ワタリガラス族長フィン=ケディンは“魂食らい”がトラクをおびき寄せる罠なのではないかと止めるが、ワタリガラス族を抜けてトラクは一人探求の旅に出かけるのだ。

紆余曲折を得て、海に住む氏族・アザラシ族がその薬を知っていると聞いて、森を出て海に出るのだが、あまりに無知なトラクはすぐに捕まってしまう。

が、レンが後から追いかけてきたり、ウルフが戻ってきたりなどなどして、三人はやっと合流するのだった。
(ここからネタばれ)

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“ぴいくん”の本名が気になって仕方がない!

高田崇史 「試験に出るパズル 千葉千波の事件日記」 2004年 講談社




久しぶりの高田崇史を読んでみようと、QEDシリーズとは異なるパズルシリーズに手を付けてみた。
QEDとは違ってライトな感じ(殺人事件はない)。
タイトルから分かる通りのパズルに絡んだ連作集になっており、必ずちょっとしたパズルが出てくる。そしてそれにちょっと似たような事件が出てくる、という形になっていた。

語り部の“八丁堀”もしくは“ぴいくん”と呼ばれている、名前が明かされていない浪人生には、眉目秀麗・明朗明晰・しかもお金持ちの千葉千波君という従兄弟がいる。
その語り部と千葉千波くん、それから語り部の腐れ縁の饗庭慎之介と三人で、日常の謎を解く、というのが大筋となっている。

今回収録されているのは以下の通り;
「<<四月>>9番ボールをコーナーへ」 麻薬受け渡しの現場を突き止める話
「<<五月>>My Fair Rainy Day」 レストランで黒真珠が突然なくなってしまう話
「<<六月>>クリスマスは特別な日」 東京下町でちょっとした爆発が続く話
「<<七月>>誰かがカレーを焦がした」 1時間ごとにカレーをかきまわすはずが焦げてしまった話
「<<八月>>夏休み、または避暑地の怪」 双子のお坊さんと三つ子の小僧さんの話

解説の森博嗣氏も書いているが最後の「<<八月>>夏休み、または避暑地の怪」が一番面白かった。
嘘つき村と正直村にもじった話で、この三つ子が非常に曲者で、正直者と、嘘しかつかない者と、嘘と本当を交互に言う者、という、実にややこしくて奇怪で、パズラーの心をくすぐる子たちが出てくるのだ。

私としては「<<七月>>誰かがカレーを焦がした」も割と好きだった。
本当に大した謎でもないのだけれども、オチもそんなのか!とくだらなく面白かった。

どうでもいいが、今迄全然気付かなくて“おおっ!本当だ”と思ったところが。
教会での結婚式なんてロマンチックという“ぴいくん”に反論する千葉千波君。“ぴいくん”に新郎の誓いを言ってみろというと

「確か……富める時も貧しい時も、病める時も健やかなる時も、死が二人を分かつまで、彼女を愛し、大切にすることを誓います―だろう」
「ほうら」千波くんは鼻で笑う。「いいですか。『死が二人を分かつまで』ですよ。これは裏を返せば、奥さんが死んでしまったら残された旦那さんは、もう何をしてもいいということです。もちろん今まで奥さんにかけていた愛情も、すべてそこで終わり。なぜならば、どちらかが死ぬまで、という契約ですから」
 ウィーン少年合唱団・天使の歌声コンサートの最前列で歌っていてもおかしくないような顔をしているくせに、何ということを言うんだろうね、千波くんは!(p215)

さすが高田氏、細かいところまでよくお気付きで…

QEDシリーズと違って人物の不自然さが出ていなかったのは(千波君とか現実味ないとしても、それはそれで小説内では不自然にはならない)、女性がいないせいか…。どうも高田氏の女性描写ってあまり上手くないような…

とにかく、“ぴいくん”と同じくパズル解きは面倒くさくて好きじゃないけど、なかなか面白かったのでシリーズを読み進みたいと思った。

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南条氏の略歴「東京・銀座生れ」ってなんかすごいな

南條範夫 「駿河城御前試合」 昭和58年 河出書房新社




割と昔に“読みたい本リスト”に入れていたが、図書館にないことが多く、やっと借りれた「駿河城御前試合」。
漫画にもなっているようだが、読んでみると確かに漫画になりやすいかも。
徹底したエンターテイメント小説だった。なんせ美男美女の出現率が90%。

“いわゆる寛永御前試合は後世のフィクションであり、実は、寛永六年九月駿河大納言徳川忠長の面前で闘われた十一番の異常な勝負であったという。”(扉より)と書いてあるが、いかんせん“寛永御前試合”というものを知らなかった無知ぶりだったので、ほ~という感はなかったが、面白かった。

試合十一番を一つずつ描いて連作のようにしているのだが、その試合に至った経緯や、剣の工夫、それから試合の様子を細かく書いてある。
経緯というのがほとんど女性関係問題―美女が絡んでいる―だったり、どこか異常な人がよく出てきたり、勝手欲しいと思う人の方が高い確率で勝ったり、というのが本当にエンターテイメント。

その戦い方も生半可なものではなくて、試合は片方が死ぬまで行われる。時には両方死んでしまう。
そして醍醐味の一つである、剣法の描写が緻密。しかも11番×2の方法を、あとがきによれば、作者がひねり出しているのだからすごい。

Category : 小説:歴史
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