勝者は勝者なりの混迷があると気付かされた巻であった
塩野七生 「ローマ人の物語6 勝者の混迷[上]」 平成14年 新潮社
ハンニバル戦記というわくわくする物語が終わって、若干減速気味になった。
戦争というより、政策よりな話になったので仕方がないといえば、仕方がないのだが…
長い長いポエニ戦役後、ローマとそれをとりまく環境は大きく変わった。
結果、ローマには失業者が増えるようになってしまったのだ。
現状を打破しようと立ち上がったのが本書の主人公である「グラックス兄弟」、ディベリウスとガイウスである。
母方の祖父に、あの勇将スキピオを持ち、父方も勇将であるという、名門の生まれである。
ティベリウスは、
こうしてティベリウスは農地改革を推し進めるのだが、元老院をはじめとして反対に合う。農民から無産者(プロレターリ)に落ちた人々に、農地という資産を与えることで自作農に復帰させ、それによってローマの市民層の基盤を健全化し、失業者救済をすると同時に社会不安を解消しようと考えたのである。(p53)
そこで平民集会での投票が開かれるのが、そこで悲劇が起こる。
投票にはグラックス派と反対派が集まって混乱していた。
元老院の討議の様子をディベリウスに伝えに来た者が言うには、強硬派の議員たちが奴隷たちに武器を取らせ選挙を妨害すると言っているらしい。
それを聞いたグラックス派が硬化したのを感じ取って、遠くにいる人々がティベリウスに何事かを問う。
ティベリウスは危険が迫っていることを伝えようとするのだが、声が届かないと思って、頭を手で示すしぐさをした。
それを見た半グラックス派が、元老院に行き、グラックスは王冠を渡すよう市民に言っている、と伝えてしまうのだった。
そこから暴動がおこり、グラックス派と反グラックス派が衝突。
ディベリウスも撲殺されてしまったのだった。
ディベリウスの弟ガイウスは、兄とは違ったアプローチで農地法を推進しようとする。
が、彼も最終的には元老院に反逆者扱いを受け、殺されてしまう。
次に登場するのが、マリウスとスッラである。
マリウスはグラックス兄弟と反対で、先祖の名前も定かでないような家の出であった。
ヌミディアがローマと戦うことになり、そこで執務官に名乗り出たのがマリウスであった。
マリウスは、ローマ兵の質が落ちたのを感じ、それを打破するためにも志願兵を募ることにしたのだった。
それにより、兵も一つの職業となった。
一方スッラは、貴族の出ではありながらも、貧しかった。
スッラはマリウスが率いる軍の会計検査官(クワエストル)となり、活躍する。
マリウスは戦時にはリーダーシップを発揮したが、平時には己の無学に対するコンプレックスを打ち破ることができなかった。
ローマ兵が徴兵制ではなく、職業軍人となってしまった以上、平時には無職になることを意味する。
その失業時の手当をどうするか、という問題に直面した時、グラックス派にのせられ、あやふやな態度を取ってしまうのだ。
グラックス派の提言は却下され、その人も刑に処せられるのだが、それへの対応も悪く、ローマ市民を失望させる。
マリウスは、理由をつけてローマから離れるのだった。
さて、ローマには同盟国がたくさんあったのだが、それぞれ自治権を渡しさえすれども、ローマ市民権を与えていなかった。
それぞれの国もローマ市民権を欲しいと思っていなかったが、度重なるローマの戦果に、ローマ市民権のうまみが増してきた。
こうしてローマ同盟者はローマにローマ市民権を求めて蜂起する。
双方ともよく戦い方を知った同士の戦いです。激戦となった。
最終的にローマは同盟国にローマ市民権を与えることで終結する。
こうしてローマ連合はなくなり、かつてのローマ連合の国々は、国家ローマを構成する地方自治体となったのであった。
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