『夢見る帝国図書館』中島京子
雑誌か何かで紹介されていた本で、図書館好きとしては見逃せないと思って、「読みたい本」リストに入れていた本。
正直に言うと、想像していたものと割と違って、コレジャナイ感を抱きながら読んだ。
良い意味で期待を裏切られたのではないというか。。。
装丁が重厚な感じだったから、そんな本なのかと思ったけれども、そうではなく…
軽いのが嫌だというわけではないけれども、期待と違うと面喰いますよね、という話。
勝手に期待していたので、作者にとっては知ったこっちゃないだろうけど。
それでも「なんだかなー」と思ったのが、話の挿話として「夢見る帝国図書館」というお話が入るんだけれども、それの立ち位置が微妙だった。
いわゆる帝国図書館の変遷がストーリーとして描かれているのだけれども、それが軽い口調。
例えば、
「本がない?書籍館なのに本がない?」
p35
将来は永井荷風の父となるべき久一郎は、憤った。
「こーれーだーかーらー」
と、久一郎は怒鳴った。
なんかこの軽い感じ。”帝国図書館”からイメージする雰囲気と合わなくて、しかもだからといって面白いわけでもなくて、この挿話を読むのがかなり苦痛だった。
メインとなる話とも微妙に繋がってないように見えるけど、最後に繋がるのかなーと期待しながら読んだけれども、最終的には別に読まなくても支障はなし、という感じだった。
メインのお話は面白かった分、余計に”なんだかなー”感が募る。
以下、簡単なあらすじ。
主人公がフリーライターだった頃、雑誌記事の取材のため上野に来たところ、ひょんなきっかけで喜和子さんという一風変わった老婦人に出会う。
主人公は子ども図書館の取材に来ていたのだが、喜和子さんは子ども図書館として生まれ変わる前の図書館を愛していて、リニューアルにはご立腹で入ったことがないと言う。
その後も子ども図書館の取材があるため上野に行くことになり、喜和子さんとちょくちょく会い親交を深める。
九州出身だけれども、大分大人になってから身一つで東京に出てきた喜和子さん。
大学教授の愛人をやっていたが、上野に住むホームレスと恋仲になり、それがばれて破局。
それでも時々大学教授と会ったりなんかしている。
喜和子さんはボロ屋に住んでおり、二階には藝大生が間借りしていた。
初めて出会った時に、職業を聞かれた際、とっさに「小説書いている」と言った主人公に、喜和子さんは幾度となく「帝国図書館についての小説を書いて欲しい」と頼んでくる。
喜和子さんは、小さい頃、戦後まもなくの頃に一時期上野に住んでいたことがあり、上野と図書館に並みならぬ愛着を持っていたのだ。
最後にはうっかり「はい」と言ってしまったものの、ずっと手を付けていなかった主人公。
実際に、小説家としてブレークしてから忙しくて、なかなか喜和子さんに会えなくなってしまっていた。
久しぶりに喜和子さんが住んでいた家を訪ねるとあたかたもなくなっており、聞いてみると体調を崩したのをきっかけに施設に入っていることを知る。
施設を訪ねると、喜和子さんの娘に遭遇し、そこで喜和子さんは家を飛び出してきたこと、そのことで娘さんは喜和子さんを相当恨んでいることを知る。
喜和子さんが亡くなってから、お孫さんとSNS通じて知り合う。
お孫さんは喜和子さんと2回くらいしか会ったことがないけれども、馬が合うような気がして、もっと喜和子さんのことを知りたいと思っていたのだ。
主人公も「帝国図書館についての小説を書く」という約束を果たそうと、小説を書こうとはするものの、どう書いたら良いのか分からない。
そんな折に、喜和子さんの恋人だったホームレスの人から、喜和子さんのメモを渡される。
それが喜和子さんが書こうとしていた「夢見る帝国図書館」の冒頭部分で、そこから喜和子さんが小さい頃、一時期だけ上野に住んでいた、ということについて調べ始める。
当時、上野にはバラックが建ち並び、喜和子さんは何らかの理由で、復員兵とその恋人らしき男娼と一緒に住んでいた。
復員兵の方はあまり仕事をしておらず、でも図書館が好きで、「夢見る帝国図書館」というのは実は彼が書こうとしてた小説だったのだ。喜和子さんの記憶では背嚢に入れられて、図書館に連れていってもらったこともあるようなのだ。
最終的にお孫さんが親戚筋から聞いたことによると、喜和子さんは元々関東に住んでおり、父親が戦争で亡くなった後、母親と喜和子さんは親戚の間を転々としていたよう。
母親は九州の家に後妻として入ることになったが、当時は戦後で食い扶持が多いと大変ということで、母親一人で嫁ぐことになる。
喜和子さんは親戚に預けられるのだが家出。どうやらその時に上野に行き、復員兵たちに拾われたようなのだ。
その後は、母親たちが喜和子さんを探すことになり、九州へ引き取られていく。
九州で喜和子さんが嫁いだ先は、非常に古い考えの家で、女性の人権はない状態。
それに耐えられなかった喜和子さんは、娘が大学に入るのをきっかけに、幸せだった思い出の地、東京へ上京したのだった。
…と、メインの話はなかなか面白いんですよ。
最後の喜和子さんの生い立ちを調べていくところは、ちょっとしたミステリーでもあり。というのは憚れる、悲しい話でもあったけれども。
でもでも、何度でも言うけれども、「夢見る帝国図書館」の挿話はいらない!!!
復員兵とか喜和子さんの意志を継いだ主人公とかが書いた態だったら良いですよ。
でもあの軽さは絶対違うでしょ…
と思うと、あの挿話はいったいなんなんだ…と言いたい。
あれがなければもう少し楽しめたのになーと思った一冊だった。
中島京子『夢見る帝国図書館』2019年 文藝春秋