『キトラ・ボックス』池澤夏樹
池澤夏樹の本が読みたくて、特に前知識もなく読んだ『キトラ・ボックス』。
読み始めてしばらくしてから、「あれ…これ、もしかして何かの続き物…?」と思って調べたら、是の前に『アトミック・ボックス』なるものを知り。
でも『キトラ・ボックス』の書評の方には、”前作を読まなくても大丈夫だった”とあったので、そのまま読み進めることに。
結果的には『アトミック・ボックス』は読まなくても大丈夫だったのだけれども…
なんというか、あんまり面白くなかったなー--…と
最初の方はいきなりハードボイルド的で、「池澤夏樹はこんなのも書くんだ!」(というほど読んでないけど)と驚きつつ楽しんだけれども、途中からは話が飛び過ぎて失速するし、最後も尻つぼみだし、割と残念な感じだった。申し訳ないけれども、違う作家が書いた方が面白かったんじゃないかな、とすら思ってしまった。
以下、ネタバレありのあらすじ。
考古学者の藤波三次郎は、日本で見つかった銅鏡が、トルファンから出土した銅鏡に似ていると着目し、そのトルファン出土の銅鏡について論文を書いた可敦に連絡する。
可敦は民博で研究しているウイグル人で、彼女に銅鏡を見せるとやはり同じ物だという。
更にその後、藤波が瀬戸内海の大三島にある銅鏡と似ていることも思い出し、また二人でそこへ銅鏡を見に行くのだ。
見た後、駐車場に行くと、突然可敦が拉致されそうになる。
藤波が野球の心得があったので、玉砂利で犯人を撃退。どうやらその犯人二人は中国人のよう。
藤波は、知り合いの(元カノでもある)宮本美汐を頼り、可敦と三人で、瀬戸内海の離島にある美汐の実家に身を寄せる。
そこで話を聞くと、可敦の兄はウイグルの活動家で、近々デモを決起するとのこと。
可敦自体はそういった活動にいっさい興味はないのだが、たぶん、中国政府に人質にとられ、兄への抑止の切り札に使われるのだろう、と語る。
ヴィザの関係もあるので、この事件は公にしたくない、だから警察にも言いたくない、というのが可敦の希望だった。
前作の『アトミック・ボックス』は美汐が公安を相手取って戦った話らしく、その時美汐に負けた公安の人で、今は美汐の実家の島で郵便局員をしている行田や、美汐の仲間だったジャーナリストにも協力してもらい、誘拐犯の身元調査を行う。
案外早く、美汐の実家もつきとめられてしまったので、今度は藤波のコネを使い、考古学の発掘現場に身をひそめることになる。
そんな折、わずかに皆から離れた隙を狙って、可敦は拉致されてしまう。
今度は、事情を知らない発掘現場の人たちの通報により、事件が大々的に取り扱われることになる。
数日後、可敦は自力で脱出。
それに対しても大きな話題を呼び、大きなニュースになったのだった。
その後、藤波との銅鏡と剣(も銅鏡と一緒にあった)の研究で大きな成果をおさめる。
その成功を祝うため、事件にかかわった人も集めてパーティーを開くことにする。
直前に美汐が可敦にそっと聞いたことをきっかけに、可敦は重大な告白をする。
いわく、可敦にはウイグルの活動家である兄はおらず、そもそも可敦の方が中国政府側だったのだ。それは日本への留学を条件に、そしてたった一人の家族である母親を盾に、中国政府に任命されたミッションで、国外にいる人権団体との接触をはかり、その主要人物をあぶりだすことが目的だった。
そのため、あの誘拐事件は中国政府による狂言で、誘拐から生還した後に大々的な記者会見を行うことで人権団体からの接触を待っていたのだ。
実際、接触があり、”今度会いたい”というメッセージまで受け取っていたのだが、会う算段を取る前に、母親が亡くなったことを知る。
こうして、中国政府からのミッションを履行する理由がなくなったので、人権団体と会うこともなく今日まで至っている、とのことなのだ。
その場にいる人は、可敦が長く日本に留まれるように協力する、と約束するのだった。
で、一応、ハッピーエンド!?
なんだかなー---微妙…
あらすじでは割愛したけれども、この銅鏡と剣にまつわる話も結構あって、どうやって銅鏡が日本に来たのかも物語が入っている。
それはそれで面白いんだけれども、この可敦の拉致事件とあまりにかけ離れさせて、印象にあまり残らない。拉致事件自体も淡々と進むので、そんなに盛り上がりがあるわけでもない。
更に言うと、美汐がちょっといけすかない。。。私の好みの問題かもしれないが…『アトミック・ボックス』を読んでないからかなとも思ったけれども、『キトラ・ボックス』がこんな調子であんまり面白くないので、『アトミック・ボックス』は読まなくていいかな、と思った。