ワタクシもクイーンの大ファンでございます
柴田よしき 「少女達がいた街」 平成11年 角川書店
恩田陸同様、私にとってどれをとっても外れがあまりないのが柴田よしきである。
本書「少女達がいた街」も期待通り、というか期待以上に面白かった!
何せ一気に読んでしまい、ただいま朝方の4時なんだから。
思うに柴田よしきのハードボイルド系の花咲シリーズとか、本書ってどことなく桐野夏生を思い起こさせる。桐野夏生よりも陰の部分が少ない気がするが。
といっても桐野夏生の方は沢山読んだわけではないので、なんとなくの感覚でしかないのだが、筆致の手触りが似てる感じがするのだ。
それはさておき、
1975年では、身よりが祖父しかいないノンノを主人公に、当時の女子高生の生活が生き生きと描かれている。
ノンノはいわゆる渋谷族と言われる子で、ロック喫茶に入り浸り、本名は知らない友達とつるむ女子高生だった。
その中でも、女子だけで構成されているロックグループのドラマーをやっているチアキとは親友と呼べる仲だった。
そんな折に、自分とよく似た、でもずっと大人っぽいナッキーという子に出逢う。
どんどんナッキーに魅かれるノンノは、逆にチアキとは疎遠になっていく。
基本的にはこんなノンノの友人関係を綴った青春小説みたいなのだが、70年代の女子高生が描かれていて面白かった。
例えば、グル―ピィと呼ばれるロックバンドの周りをうろつく女の子たちや、ロック喫茶で落ち合うだけの本名や素性も知らない関係などなど。特にドラッグが蔓延していたというところにはびっくりした。
ノンノの周りにはほかに主要人物がいて、例えばあるロックバンドメンバーのカズ。彼は大物女優の息子で、女をとっかえひっかえしているどうしようもない男。ノンノはあることをきっかけに、彼はそんな悪い人じゃないことが分かり、ちょっと仲良くなる。
それからノンノが通う高校の化学の講師・北浦。ノンノの初恋の相手で、第一部の最後の方ではノンノと結ばれる。
ところが幸せはすぐ終わってしまう。
北浦がビルの爆発事故に巻き込まれてしまうのだった。
失意のうちにカズに出くわすノンノ。
カズを自宅に呼び一夜を共にし、カズは去り際にノンノにLSDを渡す。
それをキメたノンノは、バッドトリップにはまってしまい、気付いた時には家が火事になっていた。
とここで前半が終わって、突然1996年になる。
しかも主人公がノンノから刑事の陣内になる。
陣内はある事件で怪我を負い、療養中の身。でもほぼ治っているので、ずっと気になっていた菅野邸放火殺人事件の真相を追うことにする。
この事件自体は時効なのだが、実は陣内こそが放火の第一発見者で、それをきっかけに刑事になってからこの捜査の仲間に入れてもらっていたのだ。
この事件では、男女の死体が一つずつ、記憶喪失になってしまった生存者一人が出てきた。
記憶喪失になった人の身元は依然として断定されたものではないが、状況から把握するに菅野菜月とされており、彼女は病院で生活している。
死体の男の方はカズとされているが、どうしても女の方が分からなかった。
そんな感じで後半の方は事件の解明、となるのだが、この構造が面白い。
前半の部分はまったく事件性がなく、ただの青春群像劇といった態である。でもその実、沢山の伏線がはられていて、例えば刑事の陣内は、カズやノンノが通ったロック喫茶の店員・ジンさんだし。ノンノの通っていた高校の生徒が、交通事故で死んでしまう事件があるのだが、それが実は関係していたり……。
本題とそれるが、その交通事故のエピソード中で面白かった表現があったのでここで一つ;
「でもまあ、人間の運命なんてそんなもんかも知れない。明日があるって保証なんてどこにもないんだ。予定だとか約束だとか、そんなものはみんな、サンタクロースとおんなじなんだ」
「サンタクロース?」
「そう……誰も本当は信じてやしないのに、それでも信じたいと思う。明日は来る、きっと来る。あさっても、来週も来年も、きっときっと来る。そう信じているふりをすることで、平然と明日の約束をし、来年の予定を立てる。そして考えまいとする。明日はないかも知れないということを……」(p89-90)
“信じていないのに信じているふりをするもの=サンタクロース”ってのが面白かった。
なにはともあれ、文句なしの星5つの面白さだった!
スポンサーサイト