一樹が読んでいたのはゲド戦記だろうか?
木皿泉 「昨夜のカレー、明日のパン」 2013年 河出書房新社
確か本屋大賞にノミネートされていた本だよな、
と図書館で見つけたので借りてみた。
その時、本屋大賞でノミネートされた本を分担で読んで
どれが実際に受賞するか当てよう、という試みをして
「昨夜のカレー、明日のパン」担当の子の説明がうまかったのか
非常に面白く聞こえていた。
(因みに私担当の「村上海賊の娘」が受賞)
といいつつ、今頃読んだのだが。
で、感想はというと、う~~~ん そんなに面白くなかったかな…
正直、最初の方は文体か雰囲気に慣れなくて、読むのに戸惑ってしまった。
読み進めると、まあまあ面白くなってきはしたが…
以下、簡単なあらすじ↓
とはいえ、話の中心にいるのが義父と嫁のみ、という変わった家族形態のふたり。
夫が亡くなって、残された義父と嫁が同居しているのだ。
(義母は夫である息子が高校生くらいの時に亡くなっている)
とはいえ、お互いすごく歳をとっているわけではなく、嫁はまだ20代という若さで、恋人までいる。
でもこの2人の関係が居心地よくて…という、ゆるゆるした物語になっている。
各章の簡単なあらすじは…
「ムムム」
主人公は嫁である寺山徹子。
義父・寺山連太郎のことを「ギフ」と呼んでいるのが、ちょっと現代人な感じ。
二人の何気ない生活を通して、上記の状況を説明している形になっている。
タイトルの「ムムム」は隣に住む女の子のことを2人が呼んでいるあだ名で
その子はスッチーだったのだが、笑えなくなってしまい仕事を辞めて実家に戻ってきている。
ムムムが笑った、というところで話が終わる。
「パワースポット」
ムムムこと宝が主人公。なぜ笑えるようになったかがここで分かる。
亡くなった徹子の夫・一樹と幼馴染で、かしこくてかっこよかった一樹に憧れのようなものを持っている。
その一樹が亡くなり、自分も突然笑えなくなって仕事を辞め、そんな時に連太郎に会う。
そこで、一樹が「よく死んだ人が星になるっていうけど、それは信じられない」という。
一樹に修学旅行のお土産として渡した人形付きキーホルダーを返してもらい、
それを自分の元同僚に渡して空を飛んでもらうのだ。
そして連太郎を呼んで、飛んでくる飛行機を見せるのだった。
「あれです!」
と指した。
「あそこに、カズちゃんが乗ってるンです」タカラのせっぱつまった声に、お父さんは眩しそうに目を細めて見ている。
「正確にはカズちゃんじゃなくて、カズちゃんの雪だるまが、あそこにいるんです。あそこから私たちを見てるンです」
タカラは黒河内に頼んだことを、早口で説明した。お父さんは何も言わず飛行機を見つめていたが、突然、空に向かって大きく手を振った。
「おーいッ!一樹ッ!」
初めて聞くお父さんの大声は、けっこう太くて男らしいものだった。
「オレ、ここにいるぞぉッ!」
中のものを全部、吐き出すように、そう叫んだ。飛行機が行ってしまうと、お父さんはタカラに、
「やだなぁ、叫んじゃったよ、オレ」
と笑った。(p58-9)
様々な理由で仕事を辞めてしまった同級生2人と一緒に、総菜屋さんをやることにする。
「山ガール」
今度はギフが主役。
ギフは気象予報士なのだが、それといって趣味がない。
ということで登山を始めようとするのだが、テツコの友達で山ガールの子を紹介してもらい
その子の指南のもと、登山をするという話。
「虎尾」
一樹のいとこ、虎尾の話。
一樹に対して憧れを抱いており、一樹の車を形見としてもらっていた。
その車も古くなったから廃車にしろと家族や、婚約者となった恋人からも言われるが捨てられないでいる。
そんな時にテツコが、納骨の際に納得がいかなくて取ってきてしまった
一樹の遺骨をお墓に戻すのを手伝って欲しいという。
それを通して、モノはなくなっても一樹の記憶がなくなるわけではないと分かり
車を手放すことにする。
「魔法のカード」
テツコの現恋人岩井さんの話。
といっても目線はテツコ。
岩井さんが詐欺にあったという噂を聞きつけて問い詰めると、
自殺しそうになっていた女の子を助けるということで、480万貸した、というのだった。
怒り狂ったテツコが先に喫茶店を出ると、
間違えて持って帰ってしまった岩井さんの携帯にその女の子から電話がかかってくる。
なりゆきで480万を返すのに付き合うことになったのだが
その道すがら事の経緯を聞く。
なんでも、恐喝された上に、それを親に言ったら沈静化したものの無視されるようになって、
ということを体験し、人間のことを信じられなくなっていた。
そこへ岩井さんが現れて、名刺の裏に「強」「中」「弱」とかいて、魔法のカードだよ、と渡したらしい。
女の子は「強」を渡して480万を要求し、岩井さんもどうせ来ないだろうと思ったら
480万を持って現れた、という話。
「夕子」
一樹の母親、つまりギフの妻である夕子が主人公。
時は遡り、夕子が連太郎に出会う頃の話となっている。
夕子は知り合いの死が近づくと勝手に涙が流れる、という体質を持っていた。
丁度バブルのころの話で、会社の研修でバブル期の話が出てきたので
この頃の雰囲気がよく分かったのが興味深かった。
街では、商品の種類がどんどん増えていっている気がする。同じようなものなのに、昔なら近所の店に一種類しか置いてなかったもの、例えばシャンプーみたいなものが、待ちに出れば、何種類も売られていて、みんなは選ぶという楽しさに夢中になっているようだった。夕子は、そのことにもなじめなかった。デパートに行くたびに、欲しいものが増えてゆく。そのことが、とても不安にさせる。何かを買っても、次に行くとまた新しいものがあって、心がざわざわした。(p168)
「男子会」
岩井さん目線。
ある日、ギフから突然連絡がくる。
なんでも若い女の子による詐欺にあってしまって、しこたまアンティーク家具を買ってしまったというのだ。
このままテツコに会わす顔がないから、と岩井さんの家に泊まったりする。
正直、この話が一番面白かった。
二人のドタバタコメディというか… 世代を超えた仲間意識、しかもよく考えると変な関係というのが妙に受けた。
「一樹」
タイトル通り、一樹の話。
非常に短い話で、夕子に言われて雨の中、パンを買いに行く話から始まる。
そこで出会った小学生くらいの女の子との会話で「夕べのカレー」「明日のパン」と出てくる。
そして夕子の死を経験し、そんな時にまたその女の子に出会うのだった。
多分、この子がテツコなんだろう、と匂わせつつも確証のないまま話が終わる。
あらすじを書くと面白い感じがするのに、なんであまり気に入らないのかな~と思えば
多分、ちょっとあざとさを感じるからだと思う。
タカラの話とかも良い話だったけれども、いかにも「いい話でしょ!」といったのが出てしまっているというか。
作者はドラマの脚本家夫婦ということなので、ドラマっぽさが裏目に出てしまったのかもしれない。
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