タイトルは11篇あるから、ということだろうか
津原泰水 「11」 2011年 河出書房
久し振りに津原泰水が読みたくなって、適当に借りてきたら、短編集でちょっと残念。
これが2018年の初読了本になった。
「奇譚集」と系統が同じで、ちょっと不思議な本だった。
理解しがたい物語もあったけれども、津原泰水ワールド満載だった。
以下、各話の簡単なあらすじ;
奇形で見世物小屋をやっている一行が「くだん」を受け取りに行く。
時代は太平洋戦争中っぽい。兵に「くだん」はいないと告げられるが、懇意にしている医師のはからいで、後日くだんと出会う。
くだんは彼らを違う歴史に連れていき、そこでは、軍の上層部に死が蔓延したことにより戦闘不能となり、まだ余力がありつつも無条件降伏する、という歴史になっている。
見世物小屋の一家はばらばらになり、義足ができたり、聾学校に行けたりする。
しかし主人公は、くだんは運びきれていなかったと確信しており、それは自分の気持ちは元の悲惨な歴史のなかにあるからだった。
ノスタルジックな物語。
「延長コード」
語り手の娘が亡くなり、死ぬ直前にお世話になっていた家を訪ねる。
そこには若い男女が住んでおり、男の方から色々と娘の話を聞く。
なんでも、勤めていた夜の仕事先で女と出会い、入り浸っていたそうだ。
しかも虚言癖がひどかったという。
最後に女と口論して家でしたのが、男が追いかけると、その姿はふっと消えてしまったらしい。
なので、男は「遺体をみていない、と言ったところで物語は終わる。
「追ってくる少年」
ちょっと気持ち悪い話。
父親と父親の妹が死んでしまった時のことを、故郷で少年に声をかけられたのをきっかけに回想している。
子どもだった主人公は真相は分からないが、父親が叔母を車で迎えに行った時に交通事故で死んだのだが、どうやら車の中で睦みあっていたらしい。
その時、犬を散歩していた少年も事故に巻き込まれたのだが、奇跡的に命はとりとめていた。
ただ、少年と犬の内臓が出ていて混じってしまった…というくだりがあってから、主人公に近づいてきたその少年が、怯えないで、どうせ犬は七倍の速度で生きるんだから、と言ってくる。
「微笑面・改」
アーティストの手記みたいになっている。
絹子という女性に対する偏狭的な愛を綴っている。
「琥珀みがき」
琥珀みがきの工場にいた女性が、都会に出る話。
都会で華やかで爛れた生活を送り、性病などを移されたりしつつも、故郷に戻るが自分の居場所がないことを感じ、また都会に戻っていく。
「キリノ」
正直さっぱり意味が分からなかった。
なんせのっけからこんな状態。
眼を白黒するしかない。おまえキリノに惚れてるんじゃないのかと言われて必死に否定してしまい、図星だったらしいぜ図星だよおいみんなこいつキリノに惚れてんだってとすっかり立場をわるくしたことがある。そのときいちばん騒いでくれたフラノがB組のディートリヒ嬢の微妙な美貌を絶賛するような調子でキリノの面影を脳裡にうかべた経験は僕にはなく、うかんでくるとしたらこいった感じだったよというのをこれから書いてくわけだけど、かりにそれがフラノ式であったとしたところでいったいそれは恥ずかしいことなのか、フラノのおふくろさんにだって間違いなくキリノ的アトモスフィアはあり、それも含めたうえでのフラノのおふくろさんにフラノのおやじさんが惚れてその愛の結晶たるフラノおまえが生まれたんじゃないのかといっぺん問いただしてみたい気持ちは今もある。ていうか恥ずかしい言葉をいま使った。愛の結晶ときた。こんど会ったら一発殴ってくれ。(p129)
こんな調子でフラノって誰なんだ?とか、そもそもキリノって誰?キリノとフラノはなんらかの親戚なの?といった数々の疑問が解消されることなく、さっぱり分からないまま、さっぱり分からない台詞が続いて、唐突に終わった…
理解しようと努力するのにも、句読点がなかったり読むのが困難だったので早々に放棄した。
「手」
これも割と奇妙な物語。
友達に誘われて、鴉屋敷と呼ばれている、住んでいた作家が死んだという屋敷に忍び込む。
なんでも友人は家出をするらしい。
集合時間に行ってみれば、友達以外に男二人がいて興ざめする主人公。
中に入って淫らになっていく3人をほって、部屋の外に出ると少年がいて、3人がいる扉に楔を打ってしまう。
元に戻らないのであれば助けてあげると言われた主人公は荷物はそのまま、少年に連れられて、作家が自殺した部屋に行く。
怖くなって逃げ出した主人公は、友達がいる部屋に戻るがそこには何もなく、尚も屋敷から飛び出すと、父親の同僚がいた。
彼に連れられて家に戻ると、家は燃えていて一家もろとも死んでしまったという。
病院に行こう、という同僚氏の車に乗って、主人公は「レコード屋に行きたい」と駄々をこねる。
レコード屋に入って出ると、そこには同僚氏の車もなく、ただ見知らぬ街があった。
「クラーケン」
夫と別居状態の女はグレートデンを飼う。
初代グレートデンはひょんなきっかけで訓練所で出会い、出先で飼うことになる。
家に持って帰れないということで、その訓練所から後日、グレートデンと檻がやってくる。
連れてきたのが若い女性、主人公はその若い女性を檻に閉じ込める。
次の日に檻から解放するのだが、若い女性はその後も時々やってきては、自ら檻に閉じこもっていた。
それがぱたりとなくなり、訓練所に聞くと、その若い女性は自殺したという。
その後、グレートデンを飼い続け、四代目の時に、夫が離婚届を持ってやってくる。
口論のすえ、かっとなった主人公は、グレートデンに餌をやるときにかけている糖蜜をかけてやろうとするが、夫がいなくなっている。
主人公は糖蜜を体中に塗りたくるのだった。
「YYとその身幹」
YYというのは美しい女性。
主人公は塾での知り合いとの飲み会で、YYと再会する。
帰りそびれた主人公とYYはそこで不貞を働く。というのは、YYは当時の塾講師と結婚していたのだった。
YYが殺された後に、主人公はYYの夫である講師と会う。YYの夫は、主人公との不倫行為を知っていたらしい。
結果、YYの夫がYYを殺したということが明かされて終わる。
「テルミン嬢」
ファンタジーが入った奇妙な物語。
「能動的音楽治療」というものについて、冒頭に説明が入るのだが、さらっと読んだら理解が追い付かず、そのまま読み進めると、割と意味が分からなかった。
奇妙な夫婦についてで、女の方は結構美人。
2人は鏡越しにしか出会わない。というのは出会ってしまうと、能動的音楽治療を受けていた女性が、突然アリアを歌い出してしまうからだった。
別の男が現れて、その男と夫同時に出会うとアリアは歌わずに済むので、そこからまた治療が始まるが…という話。
「土の枕」
戦争の話。
寅次と六助は一緒に戦っているが、六助は弾に当たって死んでしまう。
その時に、田舎に遺した鳥目の妹が心配だというので、寅次は「実は寅次ではなくて地主の嫡男、喜代治だ」と身分を明かして、六助の妹に良い医者をあてがう、と約束する。
喜代治が家に戻ると、両親に喜代治は肺病で死んだことにした、と言われ、そこから寅次として農民として生きることになる。
ただし、最後のわがままということで、六助の妹に医者を送る。
残念ながら先天性のものだったので良くはならないのだが、妹の茅は非常に喜んで、寅次の元へやってくる。
何回か通ううちに、二人は夫婦となった。
子供まで設けたが、茅と娘は原発で死んでしまう。
息子たちは復員兵として戻って来る…といったように、寅次になった人の人生が語られる。
それぞれの話が、結構雰囲気が違ったりして、そういう点ではすごいなと思った。
でもやはり短編集は苦手なので、もう少し長い作品を読みたいなというのが正直の感想であった。
スポンサーサイト