数字を縦書き漢数字で書かれると、あまりピンとこない
猪瀬聖 「アメリカ人はなぜ肥るのか」 2010年 日本経済新聞出版社
これまた「読みたい本」リスト消化キャンペーン本。
その昔、当時よく行っていた読書会で紹介された本(だと思う)。
アメリカには超肥っている人が多いのはよく知ってるので、単純に興味をそそられた。
読んでみると、最初の方は事実の羅列という感じで、
結局「なぜ」の部分がちょっと浅かったような気がするけれども
好奇心は満たされたと思う。
ジャンクフードの話がものすごく出てくるので
妙にジャンクフードが食べたくなってしまって、
ポテトチップスを食べながら読むという、
ダメジャナイカ状態であったのも、思い出として書いておこう…
簡単にまとめると、
まず事実として;
・アメリカの3分の2が肥満である
・肥満が大きな問題となり、アメリカの未来を脅かしている
なぜなら
-志願兵が肥満の為に入隊できないということが起きており、軍事面に影響を与える
-救急医療の現場で、肥満体に対応する器材が必要となり財政を圧迫させる
など
・貧困層ほど肥満率が高い
肥満の原因として、ジャンクフードや甘い清涼飲料水は当たり前のことであるが
2つの方向から原因を探っていた。
まず「なぜ貧困層が肥満率高いのか」というアプローチ。
・貧困層で肥満率が高いのは、貧困であるが故にジャンクフードに走ってしまうから
・外は治安が悪いので、子どもたちは室内で遊ぶことになり、よって摂取したカロリーは消費されない
・ファストフード店以外、治安の悪い地区に店を出そうとしない為、ファストフード店しかチョイスがなくなる
・フードデザートと言われる、新鮮な野菜を売っている店がない地域が増えている
・フードデザート現象は、中級階級以上が治安の悪い地区より郊外へ流出したのに際してスーパーマーケットも流出、代わりにファストフードのチェーン店やドラッグストアが入ることで起きる
そもそも、なぜこんなに味が濃くて、ものすごく甘い物が好まれるのか、
アメリカ人は味音痴なのか、という話になるが、
味覚というのは子供の時に形成される。
そして、アメリカの貧困層の場合、子どもの頃からジャンクフード漬けになるのだ。
原因は以下の通りである
・学食がジャンク化している
・その大きな原因が学校の予算不足である
・学校の予算は、その地域の固定資産税から捻出される
→貧困層の多い地域はあてられる金額が低い
→移民が多く、給食を必要とする子供の数が多い
・予算不足となると必然的に安価な加工品を使うことになる
・民間企業が侵入している
→給食とは別に「コンペティティブ・フード」として販売されている
→給食ではないので、規程の栄養素が含まれなくて良い
→企業のメリットしてはブランドの売り込み
→懐の厳しい学校としては頼らざるを得ない
・清涼飲料水に関しては、ドリンク販売権契約を学校と契約を結んでいる
→清涼飲料水企業(コカ・コーラなど)は学校での販売権を得る
→売上が目標を達成すれば、学校側にボーナスが出る
→教育費が削減された学校側としては、教材を購入するのにも四苦八苦していた
次のアプローチとして、もう少し深いところからのアプローチである。
そもそもジャンクフードは何故安いのか?
こんなにも批難されているのに何故企業はジャンクフードや清涼飲料水を売り続けるのか?
といったところに結び付く。
ジャンクフードが安い、というのは当たり前すぎて深く考えたことがなかったが、
アメリカの農業に大きく関係していた。
・1973年 前年の異常気象で食料品の価格が高騰
・農業支援策として、トウモロコシや穀物の各農家に直接補助金を支払うということをした
・その後、トウモロコシの生産量が回復し、販売価格が生産コストを下回るという状態になる
・それでもトウモロコシ農家は、作れば作るほど補助金が出るというので、作付面積を増やしていく
・トウモロコシは安価に売られることになる
・トウモロコシは様々な食料品の原材料になる
-甘味料のコーンシロップ
-肉牛を育てる飼料
企業がなぜこんなにジャンクフード・清涼飲料水を売り続けるのか、という点だが、
・アメリカ企業は社会的責任を果たすことを求められる
・肥満問題もその一つではある
・同時に、絶えず株主から厳しく利益拡大が求められる
・社会的責任と利益拡大が相反する場合、利益拡大の方を取る
→アメリカ経済は、株主利益を過度の重視する
・この経済の仕組みが、利幅の厚いジャンクフードに走り、国民の食欲を限界まで刺激する
因みに、アメリカの食事でしばしば話題に出るのが、その量だが、
徐々に増えていったのかと思いきや、
アメリカンサイズの生みの親がいるのを知って驚いた。
それはデヴィッド・ウォラ―スタインという実業家で、
1960年頃、映画館の儲けを増やす方法を考えていた時、
客が一人前では物足らなさそうだけれども、人目を気にして2つ目を買わないことに目を付ける。
一人前の量を増やし、値段も高めに設定したら、これがずばり当たった。
マクドナルドの創始者に乞われて取締役になった際も
ポテトを巨大サイズ化を提案し、そのおかげで1970年代の不況時でも
マクドナルドは売上高、来客数ともに再び上昇したのだった。
肥満に関する歴史があるって、なんかすごいな…
アメリカの肥満は、世界にも輸出されている。
というのは、アメリカでは人口がそんなに増えていない。
ということは、食糧の消費量というのは増えない状態が続いているのだ。
それでも株主を満足させないといけない。となると、ジャンクフードの輸出に繋がるのだった。
主要国の肥満率が出ていたのだが、1位から5位が次の通りである;
1位 アメリカ
2位 メキシコ
3位 ニュージーランド
4位 オーストラリア
5位 イギリス
因みに6位がカナダである。
上位を見て笑ってしまうのが、メキシコは除いて
見事に食べ物がおいしいと聞かない国。
本書ではあまり言及していないが、食への興味も肥満に関係しているのではないかと思う。
現に、おいしいと言われているイタリアやフランスは、大分下の方にある。
因みに、日本は最下位であった。
とはいえ、日本も安心できない。
周りを見渡せば、アメリカ産のチェーン店はたくさんあるし、
アメリカの甘い物は甘すぎて日本人には合わないと思いきや、クリスピークリームドーナツはバカ売れ、
更に特盛、メガ盛りというのが人気を博している。
そもそも日本人を含めたアジア人は遺伝子的に太りやすいらしい。
食糧事情の悪い状態が長く続いた地域で生活してきた人種や民族は、
有能な「倹約遺伝子」を持っている。
「倹約遺伝子」というのは、人類は飢餓に備えるため、食物から摂取したエネルギーを脂肪として効率よく体内に蓄えるメカニズムを発展させてきたのだが、その働きを担う遺伝子を指す。
有能な倹約遺伝子を持っている、ということは、つまりは、摂取エネルギーの量が少なくても、たくさんの脂肪を蓄えることができるのだ。
(今となっては無駄に有能としか言いようがないが…)
本書は2010年ということで、若干古い話ではあるが、
日本でアメリカ産チェーン店が撤退した話はあまりないし、
ジャンクフードがなくなったわけでもなければ、
そういったチェーン店がヘルシーになったわけでもない。
企業が自己中としか思えない気がしないでもないが、
企業が売るのは買う人がいるわけで、強靭な精神をもって歯向かっていかないと
肥満社会に打ち勝つことはできないんだな、という難しさを感じた。
と言いつつ、ポテトチップスを食べてしまったのだが…
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