就職の状況など、”女性”の扱い方が時代を感じた
唯川恵 「肩ごしの恋人」 2001年 マガジンハウス
おそらく初めての唯川恵の本。
そして確か、ずーーーっと昔の読書会で紹介してもらった本。
結論から言うと…こんな共感できな登場人物ばかりなのもすごい、という感じだった。
主人公の1人、るり子の言葉は共感できるところが多々あったものの、人となり自体が実在していたら絶対合わないタイプ。
もう一人の主人公、萌は、一見常識人にまじめそうだけれども、割と奔放。常識人装ってるところが、なんか納得がいかない。
別に硬派ぶるわけではないけれども、『性に奔放』というのがかっこいい、と思っている風なのがイタタタ…という感じがしてしまった。
以下、簡単なあらすじ;
るり子は可愛くて我儘で、自分のことを一番可愛いと思っているタイプなので、女性に嫌われる。
萌だけが親友である。
萌は、るり子のことを『勘弁してよ』と思いながらも、何となく許してしまっていて、今の仲が続いている。
物語はるり子の3回目の結婚式から始まる。
実はこの夫、萌の元カレで、萌と付き合っていたのを略奪して結婚したのだった。
それでも怒っているわけではない萌。
結婚式の時に、るり子が落とそうとして落とせなかった柿崎と同席になる。
既に柿崎は結婚していたけれども、ホテルに誘う萌。そこから柿崎と関係を持つようになる。
るり子はるり子で、結婚した途端に夫に興味がなくなってしまう。
新婚旅行の時から距離を取り始める。
ある夜、萌が1人残業していると、同じく夜残っていたアルバイトの崇と出会う。
家出少年だった崇を成り行きで萌は家に泊める。
その崇が大学1年生だと思ったら、高校1年生と知って驚愕の萌は、次の日に帰るように約束させる。
次の日にはるり子が押しかけてきて、崇と出掛けた先で、夫の浮気を目撃してしまう。
崇は出ていき、萌は仕事で”このままここで続けていいのか?”という出来事があり、突発的に辞めてしまう。
そんな時、柿崎に連れられて来たゲイバーに、崇がアルバイトの面接に来たのに出くわす。
仕方なく崇を自分の家に居候させるのだった。
るり子は浮気を許していたものの、浮気相手から呼び出されて、その時に夫が言うように向うから声をかけてきた訳ではなく
むしろ「あんな人に言い寄ったと誤解されるのは私のプライドが許さない」と言われて、ますます夫がいらなくなってしまう。
そして家を出て、萌の家に転がり込むのだった。
そうして、萌、るり子、崇の3人の共同生活が始まる。
最終的にはるり子は離婚し、ゲイバーで知り合った、ゲイのリョウに本気の恋をする。
柿崎は離婚して萌のことを真剣に考えるようになるが、萌は一歩踏み出せずに別れる。
崇は萌に継母に襲われた、と言っていたが、実際には実の母親が再婚し、そういうのが嫌で家出したのが発覚する。
家に帰ることになり、最後に萌と寝る。
その後、萌は妊娠するが、それは柿崎との子供ではなく、崇との子供であった。
最後の最後、崇は萌とるり子に会いに来て、イギリスに留学することになったと告げる。
何も言わずに見送る萌。
るり子は萌と一緒に住み続けて、一緒の子供を育てようと言って、話が終わる。
この終わり方は、なんとなくじんわりとして好きだった。
徹頭徹尾、るり子のことは“実際にいたら嫌いそう”と思っていたけれども、るり子の考え方は好きだった。
なので最後に抜粋;
本当はみんな知っているはずだ。わがままを通す方が、我慢するよりずっと難しいということを。だからみんな我慢の方を選ぶ。それは、楽して相手に好かれようと思っているからだ。聞き分けのよい女なんていちばんの曲者だ。心の中を我慢でいっぱいにして、そのことに不満を持ちながらも「我慢と引き替えに手に入れられるもの」のことばかり考えている。るり子は常々心に誓っている。どんなに落ちぶれても、我慢強い女にだけは絶対にならないでおこうと。(p77)
(仕事が見つからないるり子とゲイバーの文ちゃんの会話より)
「あんたを心配してあげてるのよ。少しは真剣に将来のことを考えたらどうなのよ」
「やあねえ、文ちゃん。どう考えたって、私がそんなふうになるわけないじゃない。私は幸せになるの。ずっと男にもてて、お金持ちになって、老後は温泉があって、気候がよくて、海の見えるお屋敷でダーリンとのんびり過ごすの」
(中略)
「まったく楽観的というか、のーたりんと言うか、そんな幻想抱いててどうするの。もっと現実ってものを見たらどうなの」
(中略)
「ねえ、不幸になることを考えるのは現実で、幸せになることを考えるのは幻想なの?」
「普通はそうでしょ」
「文ちゃん、私、知っているわ。ものすごく頭がよくて仕事がばりばりにできた子が、仕事に没頭しすぎて精神障害起こしたの。今も仕事に復帰できないままよ。大企業に就職して一生安泰って思ってたら、会社が倒産したとかリストラにあったってことも。玉の輿と言われてた子が、ダンナに事故で先立たれちゃってパートで必死に子育てしてることも。先のことなんか誰にもわからない。幻想って言うなら、両方とも幻想でしょう。だったら幸福な方を考えていたいじゃない。その方がずっと楽しく生きられるじゃない(中略)
それにね、私は自分が幸せになれないなんてどうしても思えないの。だって私、いつだって幸せになるために一生懸命だもの。人生を投げたりしないもの。頑張ってるもの。そんな私が、幸せになれないわけないじゃない」(p272-3)