宮部みゆき『ソロモンの偽証 第I部 事件(上)』
ふと目に留まった本書。
久しぶりに宮部みゆき作品読むか~と思ったら…めちゃくちゃ面白かった~~~
そうそう!宮部みゆきって面白かったよね!と思いながら読み進めた。
登場人物が、それこそ脇役級の人物も丹念に描かれて、そう書くと話が進まないではないかと思われそうだけれども
そういう人物の機微が物語の中心となっているので、やきもきされることはない。
人物描写が本当に秀逸で、こういう人いそう…というリアルさが最大の魅力だと思う。
本書は第1部の上巻なので、まだまだ物語の序章だろうけど、簡単なあらすじを…
クリスマスイブの夜、公衆電話で男の子がただならぬ面持ちで電話をかけていることを、その向かいの店を営む小林修造が見かけるところから話が始まる。
そのシーンはすぐに終わり、クリスマスイブを過ごす数人の中学生のお話が続く。
その中に、野田健一と向坂行夫の話が入る。
二人とも中学二年生で、ショッピングモールに買い物に来ると、
マクドナルドにずっと不登校になっている柏木卓也が一人でいることに気付く。
因みにここでのいでたちの表現で、公衆電話にいた男の子は柏木卓也かな、と推測される。
柏木卓也は、同じ中2の札付きの悪3人組にある時立ち向かい、その後、ぷっつりと学校に来なくなっていたのだ。
健一と行夫は特に卓也に話しかけることなく後にする。
次の日、健一が裏門から学校に入ろうとした時、その卓也の死体を見つけることになるのだった。
卓也は学校で飛び降り自殺をしたらしい、ということで、両親も「自殺しそうだった」と言ったこともきっかけに
すっかり自殺で決着つくことになる。
不登校になったきっかけと思しき出来事の、不良3人との関わりも噂になったものの、あれから接触がなかったしということで、いじめによる自殺という線も学校は否定。
もう一人主要人物がいて、それが卓也・健一・行夫と同じクラスの藤野涼子。
彼女は中2の中でも聡明で美人。何よりも父親が警視庁捜査一課に奉職していた。
柏木卓也の自殺がある程度、落ち着きを見せた頃、涼子の父親が何気なく郵便物を観ると
涼子宛に釘文字で書かれた手紙があることに気付く。
不審に思い、涼子に悪いと思いながら開けると、そこには卓也は自殺ではなく、不良の3人、大出俊次、橋田祐太郎、井口充によって殺された、という告発文があった。
涼子に送られたのは父親が警察関係者だからだろう。
涼子の父親は学校に行くと、果たして学校にも同じ告発文が来ていた。
おそらくこれはガセネタでしょうということになったが、その地区の少年課の佐々木に相談することにする。
佐々木の見解では、大出たち3人はどうしようもない悪だけれども、しょせん中2の子供、あの後に大出たちに会って直接「柏木卓也を殺したのか」を聞いた時の反応から、殺していないと断言する。
そうなると、誰かが嘘を告発したことになり、涼子に送られたことから、おそらく同じクラスの子ではないかという推測になる。
実際にその推測は合っていて、それを書いて送ったのは三宅樹里だった。
彼女は非常にニキビがひどく、それで大出たちにひどいいじめを受けていたのだった。
一人で投函する勇気がなく、自分の唯一の友達、浅井松子に「3人が卓也を殺しているのを見たのでそれを告発する」と説明し、一緒に投函に行った。
が、樹里は非常にひねくれた子で、松子と仲がいいのは松子が太っていて、自分より格下だと思っているから、
それがめちゃくちゃ態度に出ていたものの、人がいい松子は樹里に何を言われても仲良くしていた。
校長先生である津崎校長は、この告発文の犯人は、なんらかのアクションを取らないと、最悪マスコミに垂れ込むだろう、という涼子の父親の助言もあって、佐々木の立ち合いのもと、カウンセリングを大々的に行うことにする。
カウンセリングの過程で犯人を特定しようとしていたのだった。
その告発文、実は樹里は3人に送っていた。
残りの一人は、卓也含む樹里たちの担任、森内先生宛だった。
森内は若い女性の先生で、一部の生徒には好かれていたが、割とひいきの激しい先生でもあった。
不運なことに、森内の隣に住む女性は、夫に浮気をされて家を出て行かれ鬱屈した生活を送っていた。
その時に若くきれいな森内に逆恨みをし、郵便物をあさられ、たまたまこの告発文を見つけられたのだった。
そしてうっぷんばらしに、その女性は、自分で破った告発文をテレビ局に送り付け、「この大事な告発文が破られ捨てられていた、この森内という先生がこの告発文を蔑ろにしている」といった趣旨の手紙を添える。
という感じで、本当はもっとそれぞれの登場人物の話が色濃く語られている。
例えば卓也の家もなかなかの崩壊具合で、卓也には兄がいるのだが、身体の弱い卓也にかかりっきりで兄は蔑ろにされ、兄は祖父母の家に住んでいるとか…
健一の母親は心神耗弱状態で、父親と母親の様子を見守りながら静かに暮らしているとか…
そういった感情が絡み合いながら、卓也の死を中心に色んな話が織り成されているという感じで物語が進む。
宮部みゆき『ソロモンの偽証 第I部 事件(上)』2012年、新潮社
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