吉井仁美『「問い」から始めるアート思考』
色々読んでみる「アート思考」の本。
前回のはあまりピンとこなかったので、「どうだろうな~」と思って本書を読んだけれども、こちらはなかなか面白かった。
ただしそれは、アート思考そのものについてというよりも、現代アートについての理解が深まったという観点からで、
今まで美術が好きといっても古典絵画が好きだった私からすると
現代アートはまさに「?」のオンパレードで、それがこの本を読んで「そういうことか~」となった。
画像をふんだんに使って説明してくれているので、より具体的に理解しやすかったというのもあった。
私が本書から理解したのは
現代アートというのは良い問いを投げかけてくれるもの。
答えを提示してくれるわけではないので、観客を投げかけられた問を受けて思考するのが現代アート。
そうい考えると禅問答みたいなものなのかなと思った。
禅よりも刺激的で、問いの見せ方に何ひねりもあるのだろうけれども。
そういった背景から、2019年の「あいちトリエンナーレ」における「表現の不自由展・その後」についての考察が非常に共感が持てた。
なんというか、あの問題を受けて「これはアートなの??」と何となくもやもや感じていたのが、すっきりと言語化されたというか。
ということで、少し長いけれども引用;
あいちトリエンナーレの「表現の不自由展」について私がまず違和感を覚えたのは、その表現があまりに直接的であるということです。直接的であるがゆえに政治的なメッセージが何よりも先に眼だってしまっているという印象を受けました。本書のこれまでに紹介したアーティストたちは、そのような直接的な表現方法は使いません。…(中略)…
本書で紹介したようなアーティストたちが直接的な表現をしないのは、普遍性を求めるからだと思います。極めて本質的な「問い」を間接的に鋭く投げかけ、鑑賞者がそれまでに思いもしなかったことを思わせる。その「問い」が急進的であれば、必然的に物議を醸します。しかし、その表現が本質的でありながらも間接的であれば、誰も傷つけられることなく、どのような鑑賞者でもその問いを感じ取ることができるようになり、頭の中にある意識の壁を乗り越えていけるようになります。
最後にメモ代わりに目次を抜粋する;
はじめに
- アート思考とは
- バンクシーの「社会的な問い」
- アートに触れる意味
第1章 アートは未来を提示する
- アートは「問い」で未来を見せる
- 未来への不安が強まる現代社会
- 長谷川愛―人口問題、食糧問題、環境問題への問い
- 同性カップルから生まれた子どもの風景
- 福原志保―バーチャルとリアルの境目とは何か
- バイオアートを牽引する二人が日本から現れたのはなぜか
- 脇田玲―「見えないもの」を可視化する
- 落合陽一―テクノロジーで作るプリミティブな世界
- 豊富なアイディアを持つアーティスト
- 真鍋大度―最先端のテクノロジーで人間性を創造する
- 神経細胞の活動と人工の光をリンクさせる
- アートの概念は拡張する
第2章 「現代アート」の終焉
- 「物」ではなく「仕組み」が価値を持つ
- ビープルー作品価格75億円の衝撃
- 現代のセザンヌ
- 「現代アート」はもう終わった
- 日本にはないアートの「追及権」
- ブロックチェーンがもたらすビジネスチャンス
- 「ジェネリックアーティスト」の危うさ
第3章 「アート思考」とは意識の壁を壊すこと
- アートは人々の感覚と意識の壁を取り除く
- マーティン・クリードー「創作物がない」アート
- 「つくる」とは何か
- ジョシュ・スミスー顔のない自画像
- 遠藤一郎―「応援」をアートにする
- 岡本太郎に似ている
- 会田誠が育てた新しい世代
第4章 都市は本当に必要か?
- アートは、すでに都市への「問い」を発していた
- Chim↑Pom-「御法度寸前」の表現で社会を風刺
- 渋谷の闇をユーモラスに照らし出す
- 渋谷の野良ネズミをピカチュウに
- 『友情か友喰いか友倒れか』
- 石上純也―建築の概念を破壊する
- 天井のない建築
- 箱型の空間の限界
- 都市は本当に必要なのか?
- 森の中に図書館があってもいい
第5章 芸術祭とは何か
- アートが都市から離れていく
- アートに地域性はない
- 本来の芸術祭のあり方
- 「何も残さない」芸術祭
- 「すぐに消える建築物」を依頼
- すぐに撤収できるテントアート
- 「記憶だけ残す」アーティストは現れるか?
- 消えてはならない建築もある
- 「あいちトリエンナーレ問題」の何が問題か
第6章 <観る>から始める
- アート以外のものから「問い」を感じる
- 白洲正子―「感じる」とは何かを教えてくれた
- 小林秀雄―無心の目で見つめていた
- 東山魁夷―「観る」とは何かを教えてくれた
- 倉俣史朗―観た映画を拡張する
- 誰でも「アート」はできる
第7章 アート思考とは「問い」である
- アートの本質は「表現」ではなく「問い」にある
- アートもビジネスも「問う」者がゲームチェンジャーとなる
- バスキアの後にソニーの「ウォークマン」がヒット
- バンクシーの後にアップル「iPhone」がヒット
- アート思考とは「問い」である
吉井仁美『「問い」から始めるアート思考』2021年、光文社
スポンサーサイト