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がらくたにっき |

宮部みゆき『ソロモンの偽証 第I部 事件(下)』





上巻に続き面白かったー--
推理小説とカテゴリしたらよいのか分からないくらい、推理よりも群集劇の様相が強い。
そしてすごいのが、各人物がそれぞれ特徴的でたくさんの登場人物でも混乱が生じない。更に特徴的といっても誇張されているとかではなく、あくまでも「こういう人いそう…」と思わせる自然なもの。
宮部みゆき、すごいなー---、改めて感じた。

以下、あらすじ。

警察もカウンセリングに参加した結果、告発文の犯人は三宅樹里だということは分かるが、校長先生は内密に済ませることにする。

森内に送られ隣人が悪意をもってマスコミに送付した告発文。それを受け取ったニュースアドベンチャーという番組の茂木という記者が、これは良いネタだと執拗に追いかける。
そのせいで告発文があったことが大々的に知られることになり、更には校長先生が先生たちにも言ってなかったもあり、告発文を学校が隠していたことで大騒動になる。

それと同時に、第一発見者であった健一の物語も入る。
健一の母親は心神耗弱状態、それがどんどん悪化する。そんな折に父親はペンション経営の話を持ち込まれ、すっかりその気になる。
健一は反対するが、父親は聞く耳を持たない。どんどん負いつめられた健一は、両親を殺そうとする。
完全犯罪になるよう、両親が口論した次の日に、父が母を殺し、父も自殺した、というシナリオを実行すべく、母親をまず殺そうとする…

結局、ずっと健一の様子がおかしいと思っていた行夫が、殺そうとしたその時にたまたま電話をかけ、おかしな様子にぴんときて、刑事を父に持つ涼子の家に駆けこみ、涼子父と涼子とで健一宅に駆けつけるところでことを無きに得る。

この電話が鳴るシーンが秀逸なので引用;
 野田健一は逃げ出した。
 電話が鳴っている。鳴り続けている。明るい電子音が紡ぐ命綱。投げかけられた救助の手。つかまれ、つかまれ、つかまってくれ。
 廊下を走り、壁にあたり、階段でつんのめり、手すりにしがみつき、踊り場で足を滑らせ、したたか腰を打って声も出ないほどに痛い。
 ネクタイはどこかに行ってしまった。
 喚こうとした。叫ぼとうとした。声は出ず、ただ呼気だけが喉から溢れる。それでも電話はまだ鳴っている。まだ止まない。命綱は目と鼻の先でゆらゆら揺れている。
 起き上がり、また滑り、壁に手をつき泣き出しながら、健一は電話機へと駆け寄った。
 受話器を取る。「計画」が最後の邪悪なひと押しで、健一の指を折り曲げ力を奪い、受話器は床へと転がり落ちる。
「もしもし?」
 声が漏れてくる。
「もしもし?野田さんのお宅ですよね?こんな遅くにすみません。おばさんですか、おじさんですか。健ちゃん?健ちゃんかい?」
 向坂行夫の声だった。(p121-122)
ちょっと歌舞伎の『女殺油地獄』の、殺し直後の動きを思い出した。
そして健一の葛藤になんだか涙が出そうになった。
とりあえず良かった…

告発文の騒ぎに話が戻り、騒ぎが大きくなったのもあり保護者会が開催される。
ここで告発文が疑わしいことが明確にされる。
例えば、三人が殺したというのを見たというが、その人物も屋上にいたということなのか?クリスマスイブの夜に学校の屋上にいたのか?

それを松子の母親が帰宅後松子に言うと、松子はびっくりする。松子は樹里の言うことを本気で信じていたからだ。
樹里に問いただそうと出かけるが、その帰りに交通事故に遭ってしまう。
樹里は逃げる松子を追いかけるが、松子は慌てるあまり道路に飛び出してトラックにはねられるのだ。樹里は、その現場にいたのにそのまま去ってしまう。
松子が瀕死の状態であることを聞いた日、たまたま保健室にいた涼子は、同じく保健室にいた樹里が笑っているシーンを見てしまい、彼女の異常性を知るのだ。
結局松子は死んでしまう。

樹里は以降、声が出なくなってしまい、学校も不登校になる。
それで何となく、告発文の犯人は樹里と松子で、おそらく樹里が主犯だろうという噂が流れる。

告発文をめぐってはもう一つ悶着が。
告発された不良三人組のうち、橋田は大出軍団から抜け、学校に登校するようになっていた。
井口も登校したところ、告発文が本当であればその場にいた人になるため、橋田にお前が書いたのだろうと詰め寄る。
喧嘩のすえ、井口は窓から落ちてしまう。
幸い軽傷だったが、柏木卓也の死からずっと学校がおかしくなっている状態が続く。

学校側の決着としては、校長が退職、告発文についてはいたずらとして処理してしまうことにする。
しかし涼子はこんなごたごたのままでは整理がつかないと思い、自分たちで柏木卓也の死から考え直すことを思いつくのだった。


宮部みゆき『ソロモンの偽証 第I部 事件(下)』2014年、新潮社
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