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がらくたにっき |

エーリヒ・ケストナー『飛ぶ教室』

偕成社
発売日 : 2005-07-01

河合隼雄氏の児童書についての本を読もうと思った時に、しょっぱなが『飛ぶ教室』についてで、こんなにも有名な本を読んでいなかったことに気付き、さっそく読んでみた。
意外とケストナーの本って読んだことないんだよなぁ…『エーミールと探偵たち』も多分読んだことない…

ということで、おそらく初ケストナー作品。
正直なところ、前半部分は全然話に入り込むことができなくて、なんで傑作とされているのかが分からなかった。

まず、作者が登場してきて、夏なのに冬の作品を書かなくてはと追われているところから始まる。
え…物語が作られる舞台裏から話すの?と戸惑い、これからのお話はまったくの虚構の世界だよ、と言われている気がして入り込みづらく感じてしまった。

そして登場人物が突然たくさん出てきて、誰が誰だか分かりにくい!
マティアスとマルティンって名前似てない!?馴染んだ名前ではないので余計混乱…
登場人物一覧くれ~と思ってしまった。

と、最初の方はなかなかすいすい読むわけにいかなくて、私には合わんなと思っていたのが…
最後は「これは傑作だ!!!!」という感想になっていた。
割と号泣したし。
あー確かに傑作だったわ…
難を言ったら、最後にまた作者登場っていうのは、あまり好きな終わり方ではなかったけれども。一応、『飛ぶ教室』の世界と同じ世界線上にいるのが分かって良かったっちゃあ良かったけど。

以下、簡単なあらすじ

の前に、登場人物を…
皆、ギムナジウムに通っている4年生の子供たち。

  • ヨナタン・トロッツ(通称ジョニー):クズな父によって単身ドイツへ送られ身寄りのない状態に。優しい船長のはからいによって、ギムナジウムに入るまではその人の妹のもとに身を寄せる。クリスマス劇『飛ぶ教室』の作者。作家志望
  • マティアス・ゼルプマン(通称マッツ):将来ボクサーになりたい。いつもお腹を空かせている。あまり頭は良くない。
  • ウリ・フォン・ジンメルン:身体が小さく、弱虫。マッツと仲が良い。
  • ゼバスチャン・フランク:頭が良く皮肉屋。皆と行動するけれども、ちょっと人を寄せ付けないところがある。
  • マルティン・ターラー:成績トップでリーダー格。絵を描くのも得意。貧しい家の子供で学費を半額にしてもらっている

クリスマス劇『飛ぶ教室』の練習が、物語の根底にあるなか、出来事が次々と起こる。

まずはライバル学校の実業学校の子たちとの喧嘩。
最後のあとがきで解説されているが、ドイツは6歳で小学校に入りそれが4年生までで、そこで進学コースに進むか、職業コースに進むか決めるらしい。進学コースがギムナジウムで職業コースが実業学校とのこと。
この実業学校とギムナジウムとで、代々仲が悪かったらしい。

5人が劇の練習をしていると、同級生で通学生が実業学校生に襲撃され、一人は捕まってしまったという一報が。しかも捕まったのがドイツ語の先生の子供で、その子は皆の書き取りノートを持って帰るところで、それも盗まれたという。
4人は相談しに、1年ほど前に近くに住み始めた「禁煙さん」の所へ行く。誰も名前を知らず、廃車となった列車の”禁煙車両”に住んでいるため、禁煙さんと呼んでいた(実際には煙草を吸う)。
とても頭が切れる人で、皆が敬愛している正義先生ことベック先生くらい、皆大好きだった。
因みに今回ベック先生に助けを求めなかったのは、この喧嘩の発端が発端なので、正義を重んじる先生に頼っていいのかが曖昧だったから。

事の発端というのが、実業学校生の旗をギムナジウム生が取って、それを実業学校生がベック先生にチクると、ベック先生は激怒。
と言ってもそれが可愛くて「旗が3日以内に実業学校生の手元に戻らないと、2週間、挨拶されても答えない」というもの。でも先生大好き生徒たちにとって絶大な効果があったらしい。
すぐに旗は戻されたが、旗が破れていたというのが今回の事の発端。

捕まった生徒と書き取りノートの奪還をはかる。
実業学校生のリーダー格エーガーラントと交渉を進めるなかで、エーガーラントは許す気になるものの、仲間が引かないので困ったことになる…というのは、なかなかリアルな展開だった。
結局、大勢で喧嘩をし、その間に捕まった子は奪還したものの、書き取りノートは燃やされてしまっていた…

喧嘩を終えて戻ってくると外出届を出さずに出かけたということで、舎監であるベック先生の元へ連れられる。
理由を聞いたベック先生は、仲間を助けるために外出したことを鑑みて、罰を軽くしてくれる。
そしてなぜ自分に話さなかったのか、自分は信頼置けないのかを聞く。
皆は信頼おけないわけではまずなくて、先生に迷惑をかけたくなかったからだと伝えると、ベック先生は自分の体験を語る。自分がこのギムナジウムに通っていた時、母親が病気になってしまい、でも誰も信用していなかった為に脱走を繰り返し、最後には怒った校長先生に事情を伝えることで事なきを得た、という話だった。その経験から、ベック先生は子供たちが悩みを打ち明けられるような舎監になりたいと思って先生になったのだと言う。
そのベック先生の話の中に、ベック先生が少年時代の大親友の話が出てくるのだが、それが禁煙さんだったに違いないと5人は確信を持つ。

喧嘩という大きな出来事後は、いくつかの出来事が同時並行に進む。

まずウリに関する話。
ウリは弱虫だからと何かとからかわれ、今回は天井に吊るされるということが発生(マティアスは抑えられて助けられず)。
先生の発見によって降ろされたけれども、ウリは3時に運動場に集まるよう言う。
その時間に皆が運動場に集まると、ウリが傘を持って現れ、のぼり棒のてっぺんまで登ると、そこから飛び降りたのだった。
傘はウリの予想に反して朝顔状態になってしまい、幸い命に別状はなかったが大けがをしてしまう。でも、そうしてウリは勇気を見せたことで、からかわれることがなくなったのだった。

ウリが天井に吊るされた事件の発生後のこと。
いよいよ禁煙さんが、ベック先生の大親友だったことに確認を持ったマルティンとジョニーは、ベック先生を連れて禁煙さんの住む列車に行く。
そして果たして…ベック先生の大親友のローベルトだったのだ。
2人は再会を喜び、マルティン達との交流を通して子供たちと関わることに前向きになっていたので、ベック先生の紹介でギムナジウムの校医になる。

ウリがのぼり棒から飛び降り、命に別状がないと分かってほっとした時、マルティンは家から届いた手紙のことを思いだす。
クリスマス休暇に帰ってくるためのお金が入っているはずなのに、開けてみたら、電車賃には到底足りない金額しか入っていない。
同封された手紙には、仕事もなく、色んな伝手をたどってお金を集めようとしたがこれしかない、とても悲しいけれども涙を流さないことをお互い約束しましょう、同封したお金でケーキを買って食べて、と書かれていた。
絶望したマルティンは、好評だった『飛ぶ教室』の上演も上の空。皆がいそいそと帰り支度をしている中、誰にも帰れないことを言えずに、悲しい気持ちを押し殺しているのだった。

あらかたの生徒が帰った日、ベック先生が散歩していると、マルティンが一人いるのに気づく。
事情を聞いた先生は、クリスマスプレゼントと言って往復の旅費代をくれたのだった。
そしてマルティンは家に帰ることができて、両親ともにベック先生へ感謝するのだった。
因みに、ベック先生がお金をくれるシーンは、何度読んでも泣ける……いい話過ぎる……

物語の最後は、また作者の話になる。
ベルリンに戻った作者はジョニーと船長さんに会う。なんと、ジョニーは船長さんの養子になったのだ。


個人的にウリとマティアスのコンビがとても好きだった。
自分が臆病だと思い悩むウリと、あっけらかんとしたマティアス。でもマティアスはウリを馬鹿にすることは決してなく、自分があまり勉強ができないものだからスペルを聞いたりする。
ウリが飛び降りた時は、自分が「皆を見返すようなあっと思わせることをすればいい」と言ってしまったからと思い悩みつつ、クリスマス休暇で帰るぎりぎりまでウリの病室にお見舞いに行ったりと、仲良しっぷりが可愛くて良かった。
こんなに対称的だからこそ仲良いんだろうなーと思ったり。

セバスチャンもジョニーもなかなかの大人びた発言に感服することもしばしば。
特にジョニーが複雑な生い立ちであることから、達観ぶりが際立つ。
例えば、ジョニーとマルティンがウリの両親が病室に来ているのに遭遇した後、マルティンに言う言葉
「もうなれっこだよ。人は親をえらべないんだ。ときどき、いつかむかえにきてくれるかもと思ったりするけど、すぐ思うんだ。ここでひとりでいるのは、しあわせだった。…(中略)…
 心配しないで。そりゃあ、すごくしあわせとはいえないさ。しあわせだっていったら、うそになるよ。だけど、すごくふしあわせでもないんだよ。」(p210)
でもその大人びた発言の裏を考えると切ない。セバスチャンも、その背景は語られることがなかったけれども、孤独を抱えているのがうかがえる。
こうした、ただ無邪気な少年時代を描くのではなくて、子どもの頃だって思い悩み、苦しい想いをするんだということを描きたかったんだなと思った。
実際、本の最初の方に、子供時代をいつも楽しくて幸せいっぱいみたいに描く作家を糾弾している。

幸せなところも、辛く苦しいことも描くことによって、この作品を傑作にしているんだろうなと思った。
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Category : 児童書
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